2人それぞれのネームも公開

 こうした「情報公開」は『バクマン。』という作品それ自体の成り立ちにまで及んでいる。第1巻には「原稿が出来るまで」というコーナーが設けられ、同作の「ネーム」の一部が収録された。ネームとは、どのようなコマ割りにするかを表現し、登場キャラクターのセリフなどを加えた「マンガの設計図」。このコーナーでは、大場氏のネームを基に、さらに小畑氏がネームを作るという2つの段階を経て、原稿が完成していることが明かされている。

 大場氏は今回「原作」とクレジットされているが、一般にマンガの「原作」が何を指すのかはあまり明確ではない。実際、マンガ制作を第一に考えられた原作が作品として世の中に出回ることは、ほとんどない。

 だが、ラフに描かれることが多いとはいえ、ネームはマンガの最大の特徴であるコマ割りを決定する作業。作品の出来はネーム次第といっても過言ではない。それゆえ同コーナーは、大場氏のネーム形式で書かれた原作、つまり「ネーム原作」の重要さが垣間見える貴重な機会となっている。

 さらに注目すべきは、これがたんなる舞台裏の種明かしにとどまらず、ここに見られる大場・小畑両氏の関係に主人公2人の関係が重ねられること。同作の作中では、主人公たちが両氏の後を追うように、同じ分業システムを採用することを決定する経緯が、生々しく描かれているのだ。

分業を前提にした新たなマンガ家像

 ネーム原作の可能性について早くから指摘している編集家の竹熊健太郎氏は、作画担当のサイコーが、原作担当のシュージンに「俺が納得できるネーム描けなきゃ組まない」と告げる場面に「時代が変わった」と驚いたという。

 「従来、ネーム作りはマンガ家と編集者の聖域で、実際、90年代までマンガの原作といえば小説や脚本形式でした。ベテランのマンガ家がネーム原作までを手がけ、作画を他人に任せるケースを除けば、原作者がネームまで作ることはほとんどなかった。ところが、この場面ではマンガ家志望の少年が自ら、ネーム原作を依頼しているわけです」(竹熊氏)。

作画担当のサイコーが、叔父が残したネームを例に挙げ、原作担当のシュージンにネームを依頼している場面。右上のコマに描かれているのがネームだ(単行本第1巻p.104-105より)
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社(画像クリックで拡大)