ところで、今回の『ザ・マジックアワー』は、ある有名なハリウッド映画をモチーフにしていることは映画通ならすぐに思い浮かぶ。それは、三谷幸喜が敬愛するビリー・ワイルダー監督による『お熱いのがお好き』(1959年)だ。

 舞台は禁酒法時代のシカゴ。ギャングの抗争に巻き込まれた2人のバンドマン、ジョーとジェリーは、ギャングの追っ手をかわすため女ばかりの楽団に女装を施し女性になりすまして紛れ込む。女装した2人はそこで美人歌手のシュガーと知り合い、ジョーは彼女に熱を上げる。しかし、女装の姿ではどうすることもできず、楽団は一路マイアミへ向かう。しかし、そこにギャングの親分が現れ、2人は女装したままギャング団の前で演奏することになっていく…。

 ギャングに追われる2人をトニー・カーティスとジャック・レモン、美人歌手シュガー役にはマリリン・モンローを迎えて制作されたこの映画は、いわゆる“なりすましコメディー”の代表作。主演男優賞などを含むアカデミー賞を5部門制した。この名作と今作の『ザ・マジックアワー』との共通点は作品内にいくつもみられる。

 本作は『お熱いのがお好き』と同じギャングものの設定で、街の名前はシカゴになぞって「守加護」とされている。ギャング風の男が女装する設定を、本作では売れない俳優がギャングに扮(ふん)する形にしている。この“なりすます”設定一つを見ても、三谷幸喜がこの映画を参考にしていることは明らかだ。

本作は、ビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』がモチーフになっているほか、市川昆監督の『黒い10人の女』やギャング映画の代表作『暗黒街の顔役』などの過去の作品へのオマージュにもなっている
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 さらに、本作は『お熱いのがお好き』のほかにも、過去の名作へのオマージュに満ちている。村田が好きな作品として何度も登場する映画『暗黒街の用心棒』は、ギャング映画『暗黒街の顔役』(1933年)のもじり。また、先日亡くなった映画監督の市川昆もこの映画には少しだけ登場する。村田が端役で出演する映画を監督しているという設定だが、そこで撮影されている映画のタイトルが『黒い101人の女』であり、市川昆自身が監督した『黒い10人の女』(1961年)のオマージュになっているのだ。

 コメディー映画というだけでなく、三谷幸喜が敬愛する過去の映画へのオマージュに満ち、映画好きならニヤリとするような要素が沢山盛り込まれた『ザ・マジックアワー』。ここで取り上げた三谷の思いを胸に刻んでから劇場に行くと、よりいっそうこの映画を満喫できるだろう。

(文/小山田裕哉)