米国で114年の歴史を持つ老舗チャートのビルボードが、2月より日本オリジナルの「ビルボードジャパン」チャートをスタートした。今、J-POPなどを対象にしたチャートを立ち上げたのは「ビルボード」というブランド力を改めて強化し、これを中核に音楽事業を進めるためだ。

の日本での事業展開
【1】 2007年8月~ ライブハウス開業
食事と音楽が楽しめるクラブ&レストラン「ビルボードライブ」を、東京・大阪・福岡で開業。こけら落としには、70年代から活躍する米国の大御所バンド、スティーリー・ダンを迎えた。落ち着いた雰囲気のスペースで、出演者も大人を意識したラインアップ。
【2】 2007 年10 月~
 着うた提供スタート
洋楽の着うた、着うたフルを配信する「ビルボード公式」モバイルサイトを、ドワンゴと共同で展開。20代後半から30代を中心に人気を集め、現在登録者が3万人を超えている。
【3】 2008 年2 月~ 日本版チャートを配信
パッケージ実売データとラジオ放送回数データを合算した「Billboard Japan Hot100」など、4種類の独自チャートを開始。毎週水曜日に配信する。http://www.billboard-japan.com/

 06年に、日本におけるビルボードのライセンスを取得した阪神コンテンツリンクでは、その名を冠したライブハウスや、洋楽着うたを提供するモバイルサイトなどの事業を既に展開してきた。しかし、同社の礒崎誠二マネージャーは「契約当初から、国内でビジネスを拡大するには独自のチャートが必要だと考えていた」と言う。

 これは、若い世代での認知度が低いため。礒崎氏が「ビルボードという名前を出すと、『懐かしい』と言われることも少なくない」と話すように、30代以上の洋楽ファンには高い知名度を誇る。一方、洋楽=米国の意味ではなく、洋楽邦楽ともに選択肢の増えた20代以下にはイメージが希薄。若い世代にそのブランドを浸透させる切り札が、独自チャートというわけだ。

ヒットが先読みできる

 だが、日本の音楽ランキングの分野では、スタンダードの地位を確立したオリコンという存在がある。礒崎氏は「ビルボードが提供するのは、社会への浸透度を計る“チャート”。どちらがいい悪いではなく、パッケージ売り上げの瞬間を切り取り、順位付けをする“ランキング”とは、コンセプトが違うと考えています」と語る。

 現在、ビルボードジャパンが提供するチャートは4種類。メインとなる「Billboard Japan Hot 100」はサウンドスキャンが提供するCDなどパッケージの実売データに、プランテックのラジオ放送回数データを独自に合算しているのが特徴だ。そのノウハウは米国の本家「Hot100」にならっている。

 3月第2週を集計対象にした両者のtop10を比べると、オンエア数を組み込むビルボードは、9位桑田佳祐、10位山下達郎など、発売前の楽曲も上位に(下表参照)。また、CDセールスが落ちてもリクエスト回数の多い曲は長くチャートインし続けるなど、よく耳にする楽曲が好結果を得やすい。「CD発売前の新人がいきなり上位にチャートインしたり、洋楽の比率が高いのも特徴。(ヒットの)先読みができるのを、面白いと感じてもらえたら」(礒崎氏)。

ビルボード オリコン
順位 曲名/アーティスト 曲名/アーティスト
1 そのまま/ SMAP そのまま/ SMAP
2 手をつなごう/絢香 君station /オレンジレンジ
3 君station /オレンジレンジ 太陽のナミダ/ NEWS
4 チェイシング・ペイブメンツ/アデル そばにいるね/青山テルマfeat.SoulJa
5 太陽のナミダ/ NEWS 海雪/ジェロ
6 そばにいるね/青山テルマfeat.SoulJa Pure / EXILE
7 HOME /清水翔太 手をつなごう/絢香
8 Pure / EXILE HOME /清水翔太
9 DEAR MY FRIEND /桑田佳祐 Close to you /東方神起
10 ずっと一緒さ/山下達郎 旅立ち/ GReeeeN

3月3~9日を集計期間の対象にしたTOP10。ピンク地の3曲はオリコンでTOP10に入っていないもの

 本家の米国ビルボードは、R&Bなどジャンル別中心に約80 種のチャートを持つ。今後は日本でも30代中盤以上向けのラジオ番組で放送された曲を集計した「アダルトコンテンポラリーチャート」、ユーザーと一緒にヒットを予測する「未来チャート」など、ユニークなチャートを増やしていく方針だ。同時に、着うたなど「Hot100」作成の基礎となるデータの拡充、既に提供を始めた「TSUTAYA on line」以外のメディア露出の拡大、自前のポータルサイトの開設などを目指す。

 これまで、日本では「CDセールス=ヒットの指標」とされてきた。複数の要素を合算した複合型チャートは個別の音楽番組などで作られても、多くのメディアで紹介される普遍的なものはない。

 しかし、着うたなどダウンロード市場の拡大に伴い、CDセールスだけでは人気の楽曲は読み取れないとの声は強まっている。音楽ビジネスが過渡期の今だからこそ、社会への浸透度を表すというビルボードの複合型チャートが“新しい指標”の1つへと成長するチャンスはありそうだ。

(文/橘川有子)

※この記事は日経エンタテインメント!(5月号)より転載しました。