この映画を手がけたのは、これが映画2作目となる井口奈己(なみ)。1967年12月4日生まれで、デビュー作『犬猫』(2004年)で国内外から高い評価を受けた新人女性監督だ。物語よりも感情の微妙な変化を重視する女性ならではの世界観が広く共感を呼んでおり、今後の活躍が期待されている。

永作博美(左)と打ち合わせをする監督の井口奈己(右)。感情の微妙な変化を重視する作品は国内外から高い評価を受けている(画像クリックで拡大)

 彼女をはじめ、最近、日本の映画界では女性監督の活躍が目覚しい。『殯の森』(2007年)でカンヌ審査員特別賞を受賞した河瀬直美。2006年に『ゆれる』でブルーリボン賞の監督賞に輝いた西川美和。『かもめ食堂』(2006年)『めがね』(2007年)と2年続けてヒットを記録した荻上直子。写真家としても著名な『さくらん』(2007年)の蜷川実花。『さくらん』の脚本を務め、監督として今年8月には蒼井優主演の『苦虫と百万円』が公開するタナダユキなど、ここ2~3年のヒット作品には女性監督が名を連ねている。

 このように女流監督が増えている背景として、安価で高品質なデジタルビデオカメラ(以下、DVカメラ)の普及が挙げられる。大がかりな機材を必要としないDVカメラの普及により、莫大な予算をかけずとも、映画が製作できるようになった。それにより、自主映画製作をするアマチュアが増加。ぴあフィルムフェスティバルに代表される、各種アマチュアのフィルムフェスティバルが全国に設立されたのもこの状況を受けてのことだ。常に新しい才能を探し求める映画業界の後押しもあり、下積み経験を経ずとも、受賞者たちがプロとしてデビューできるようになったのだ。

 映画社会に入り、上下関係の叩き上げから監督になる以外にも、才能と実力さえあれば、映画監督になれる環境が生まれてきたともいえる。実際、注目されている女流監督たちの多くは自主映画出身である。さらに、一昨年からの邦画バブルにより、邦画作品が注目されやすいこともこの状況に拍車をかけている。

 女性の活躍は今や監督だけに留まらず、映画の脚本にも及んでいる。先述した『さくらん』のタナダユキをはじめ、現在公開中の映画『陰日向に咲く』の金子ありさ、『天然コケッコー』(2007年)の渡辺あやといった作家がヒット作を産み出している。映画・脚本とも女性たちの作品は実に多彩であり、人間の内面を巧みに描いたものが多い。今後も作品はより豊かなり、さらに女性監督は増えて行くに違いない。

(文/小山田 裕哉)