10月半ば、ポップミュージック界のスーパースターであるマドンナが、所属レコード会社との契約を来年発売するオリジナルアルバムを最後に解消すると発表した。デビュー以来、25年に渡ってパートナー関係にあったワーナーミュージックグループとたもとを分かち、彼女が新たに契約を結んだ相手は、なんとレコード会社ではなく、イベント興行会社の「米Live Nation(ライブネーション)」。マドンナが手にする金額は、10年の長期契約で1億2000万ドル(約140億円)と言われている。トップアーティストによる巨額かつ前例のない契約形態が、音楽業界に投げかける波紋は大きい。

 米Live Nationは、米国のカリフォルニアに本社を置き、ワールドワイドにイベント運営を手がける、興行会社の最大手。もちろん、レコード会社とは事業内容も骨格もまるで異なる企業であり、今回のような形でアーティストと契約を結ぶのも初めてのことだ。同社が莫大な契約金と引き換えにマドンナから獲得した権利は、アルバム3枚分のリリースや、ライブツアーのマネージメント、アーティスト商品の販売、「マドンナ」というアーティスト名のライセンスなどが含まれる見通し。つまり、CDの制作・販売だけでなく、マドンナというアーティストにまつわるビジネスの、ほぼすべてに関わることができるわけだ。

 2007年度版の「ギネスブック」において“史上最も稼いだ女性シンガー”に認定されたマドンナだが、近年の収益の大部分はライブツアーによって生み出されている。そして米Live Nationは、2001年以降に彼女が行ってきた3回のワールドツアーをプロデュースしており、総額で5億ドル(約580億円)近い収益を上げた。こういったライブ事業を主軸にして、多角的なビジネスを展開していくのが同社の狙いだろう。その中でCDやDVD作品が担う役割はそう大きくないかもしれないし、「ライブ事業のプロモーションツール」といった程度の位置付けになることも考えられる。

 パソコンとネットの普及によって、音源のコピーが安易にできるようになった状況の中で、ライブという“生の体験”を主力商品として打ち出していくのは、とても理にかなった手段だ。事実、ライブ活動で主な収益を生み出していくアーティストは増えてきている。なかでもローリング・ストーンズは、2005年から2007年にかけてのワールドツアーで4億3700万ドル(約500億円)の興行収入を得るなど、その筆頭に挙げられるだろう。このビジネスモデルが実現できるのは、高い知名度と既に人気を獲得している大物だけかもしれないが、そうしたひと握りのアーティストが、今後、マドンナの動きに追随していく可能性は充分ある。

 マドンナの発表とほぼ同時期、英国の人気バンドであるレディオヘッドが、レコード会社を介さずに新作を自身のサイトで直接ダウンロード販売した。こうした、さまざまな形の「レコード会社離れ」が次々と噴出し続けているのが現在の状況だ。いつか起こると言われて続けてきた音楽業界の劇的な変革。その動きが、日本のアーティストに波及するか注目したい。

(文/澤田大輔;Spoo!)