専門性が強く狭い世界だったDTM(Desktop Music)ソフト市場に超新星が登場した。それが異色の音楽製作ソフト「初音ミク(ハツネミク)」だ。“彼女”が登場するや否や、動画共有サービス「ニコニコ動画」を中心にして、これまで作曲に縁のなかった普通のユーザーまでをも巻き込み、ネットで大きな話題を振りまいている。TBSの番組が初音ミクを取り上げたところ、放送直後からその報道姿勢に非難が噴出するなど注目度は高まるばかり。10月6日に発売された雑誌「DTMマガジン」は限定版として体験版を添付したところ、通常の数倍が入荷をしたにも関わらず、わずか数時間で売り切れた本屋も多いという。さらに11月8日、ついにシリーズ第二弾「鏡音リン(カガミネ リン)」の発売が正式に発表された。これでまた、初音ミクの話題がネット界を席巻しそうだ。

「キャラクターボーカルシリーズ01 初音ミク」
音楽制作ソフト。音符と歌詞などを入力すると、その通りに歌わせることができる。実売価格は1万5750円前後(画像クリックで拡大)

正体は“個性”を持った音楽制作ソフト

 初音ミクの正体は、ボーカロイド(VOCALOID)と呼ぶソフトウエアだ。これは「ボーカル(VOCAL)」+「アンドロイド(ANDROID)」を合わせた造語で、音符と歌詞を入力すると人間の声を元にリアルな歌声を作ることができる。クリプトン・フューチャー・メディア(以下クリプトン)は、ヤマハが開発したこの技術を応用して、さまざまなボーカロイドソフトを販売してきた。もちろん、初音ミクが登場する前からの話である。ボーカロイドはデモ音源の製作などに利用され、特に「作曲はできるが、歌唱力に自信がない」「男性が女性ボーカルの曲を作るとき、具体的なイメージをつかみたい」といったケースで、大いに役立ってきた。

 では、過去のボーカロイドと、初音ミクの違いとは何か。もっとも大きな違いは個性があることだ。初音ミク以前のボーカロイドシリーズの日本語女性ボーカルソフトの商品名は「MEIKO」。キャラクターの名前はついているが、ソフトの内容を伝える以上の意味はなく、パッケージに描かれたイラストも女性ボーカルの一般的なイメージを表現しているに過ぎなかった。あくまで「女性の声で歌うソフト」として、個性を出さないことで一般性と普遍性を重視していたのである。

 これに対して、初音ミクの場合は個性のあるビジュアルイラストを前面に出し、彼女を“バーチャルアイドル歌手”として、キャラクターを明確にしたのである。クリプトンのWebサイトを見れば、初音ミクの年齢、身長、体重まで掲載されているのに驚く。そして、初音ミクの声は、『ときめきメモリアル Only Love』の弥生水奈などを担当した若手人気声優・藤田咲さんを起用。価格が1万5000円程度とお手ごろなのもブームの呼び水となった。