05:文学の今が分かる10冊 〈紀伊國屋書店 推奨〉

本のコンシェルジュが選ぶ“この春のお薦め本”
紹介者:紀伊國屋書店・新宿本店 市川房丸さん

担当ジャンル(フロア):新刊書・文学書フロアほか
書店員歴:22年
1カ月の読書量(冊):10冊

書店名:紀伊國屋書店 新宿本店
住所:東京都新宿区3-17-7
TEL:03-3354-0131
営業時間:10:00~21:00
定休日:年内無休
URL:http://www.kinokuniya.co.jp/

ミステリーの作家が時代小説に、警察小説の作家が記者小説に

 文芸の世界では、このところ、ミステリーの作家が時代小説に取り組むという傾向が見られるようになりました。冲方 丁さんの『天地明察』もそうですし、百田尚樹さんも5月に時代小説を出版される予定です。冒険小説などを書かれてきた船戸与一さんが戊辰戦争を扱った『新・雨月 戊辰戦役朧夜話』を書かれたり。2008年まで遡りますが、真保裕一さんが『覇王の番人』で時代小説に取り組まれたりもしましたよね。そういう形で大変多くなっているんです。高嶋哲夫さんの『乱神』も歴史ロマンでしたし。

 ミステリーの中で、新しいことに取り組もうとするときに、未知の領域を時代小説に感じているのかもしれません。警察ものが飽和状態にある中、まだまだ増えそうな予感がありますね。

 もう一方で、警察小説を書かれてきた作家が、記者を主人公にした小説を書かれる傾向も出てきました。今回ご紹介する誉田哲也さんもそうなのですが、不思議なことに香納諒一さんが2月に出された『虚国』という小説も、記者ものなんですよ。あるいは1月に出たばかりの堂場瞬一さんの『虚報』も新聞記者が主人公。今まで警察小説を書いてきたいわば王道の作家のみなさんが、記者小説に挑んでいるという流れがいま、起きています。それは面白い傾向ではないかと思います。

書店員お薦め

『天地明察』

冲方 丁[著] 角川書店[刊] 1890円(2009年11月30日)

『天地明察』

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2010年本屋大賞、第31回 吉川英治文学新人賞作品です。SF系の小説を書かれていた作家さんですが、この作品では時代小説に挑戦しました。江戸、四代将軍家綱の時代を舞台に、日本独自の太陰暦を作り上げるという一大プロジェクトに携わった主人公を描いています。この作品は時代小説が苦手な人でも十分に楽しめる、いろんな人にお薦めできる1冊です。上司との信頼関係や、苦労を重ねて目的を達成していく様は、どこか青春小説のようですらあります。

『モンスター』

百田尚樹[著] 幻冬舎[刊] 1575円(2010年3月25日)

『モンスター』

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市原隼人さん主演で映画にもなる『ボックス!』や、感動作『永遠の0』などを書いた著者が、意外な内容に取り組んだ作品で、感涙ものではないんです。主人公はかつて醜く、周囲からバケモノ呼ばわりをされていたのですが、やがて整形手術に目覚め、手術を繰り返して完璧な美人に変身するんです。途中まではコンプレックスを持って「どうせ醜い」と思っているんですが、目を変えたら可愛くなり、一つ自信をつけ…と成形するたびにポジティブなエネルギーを身に付けていく。そのバイタリティーが面白い作品です。

『主よ、永遠の休息を』

誉田哲也[著] 実業之日本社[刊] 1680円(2010年3月20日)

『主よ、永遠の休息を』

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通信社勤務の主人公は、池袋警察署の記者クラブに詰めていたが、コンビニ強盗の現場に居合わせ、犯人逮捕をスクープ。やがてある事件を追ううちに、14年前に起きた女児誘拐殺人事件の「犯行現場と思しき実録映像」がネット上で配信されていたことを突き止める。しかし犯人は殺害を自供したものの精神鑑定によって無罪となっていた──警察小説を書かれてきた著者が挑む、警察とは手法もアイテムも違う新聞記者ならではの事件譚です。

『エデン』

近藤史恵[著] 新潮社[刊] 1470円(2010年3月26日)

『エデン』

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『サクリファイス』で感動を呼んだ著者による、ミステリー小説色が少し薄くなったある意味新たなスポーツ小説です。何しろ舞台はツール・ド・フランス。大藪賞受賞、本屋大賞 2位に輝いた傑作『サクリファイス』の、一応続編なのですが、何より自転車レースの裏側が覗けるのが興味深い。ツール・ド・フランスを見ながら読むと、おそらくぐっと面白さがますのではないでしょうか。たった1人の日本人選手として、ツール・ド・フランスの舞台に立つ主人公が巻き込まれていく、外からは見えないプロスポーツの深淵が、非常にリアルです。

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