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富士丸へ

どうやら、お前は本当にいなくなってしまったらしい。
帰宅し、お前が息を引き取っているのを発見したあの夜から
まる6日間、俺の記憶は断片的にしかない。

息をしていないお前を、俺は一晩抱いて寝た。
火葬場へも行った。でもそれもこれも全部嘘だと思っていた。

なぜならその間、俺は文字通り浴びるように酒を飲み、何も食べず、
誰のいうことも聞かず、これは夢だ、夢に違いない、
夢ならいつか覚めるはずだと、ずっとそう思い込もうとしていたからだ。

昼なのか夜なのか、眠っているのか起きているのかも分からず、
ベランダにしとしと響く雨の音を、虚ろな目で聞いていた。
だけど7日目の未明になって、いつまで経っても覚めない夢に、
これはもしかしたら現実かもしれないと、
認めざるをえない事実なのかもしれないと悟った。

その一週間、俺は周りの人たちに大変な迷惑をかけてしまった。
中には俺があまりにひどい状態なので、
富士丸の死を素直に悲しむ余裕がなかったという人もいたほどだ。
申し訳ない。謝らなくては。

そして俺は、苦渋の決断でお前の死をブログで報告することにした。
すると多くの人が、お前の死を一緒に悲しんでくれた。
この幸せ者め。

だけど、多くの人に悲しい想いをさせてしまったのも事実だ。
この馬鹿犬め。

長生きしろって、あんなにいったのに。
これからたくさん楽しいことがあると、期待していた矢先だったのに。

7年半一緒に過ごした犬が死んだ。
文章にすればたったこれだけのことなのに、
何だろう、この悲しさは。何だろう、この辛さは。

いくら頭では犬だとわかっていても、
やっぱりお前は俺にとって家族であり、
息子だったのだ。
お前がいない部屋は、がらんとして空気まで違う。

これまで俺はお前のことを一度も可愛いとは書いてこなかった。
だから最後くらい書いておこう。
お前は、本当に可愛い奴だった。
可愛い、富士丸。愛おしい、丸。お前のことが大好きだった。
目も口も鼻も、首のモフモフも、足も、しっぽも、全部が好きだった。
すべてを捧げてもいいと思っていた、俺の犬。

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お前は、幸せだったか。
俺は、お前と過ごせてすごく幸せだった。
お前と出会えて、本当に良かった。

お前にとって俺はすべてだったが、
俺にとってもお前はすべてだった。
触りたい。もう一度、お前に触れたい。
でも、それはどうやら叶わぬことらしい。
正直、これを書いている今もまだ信じられない。
だけど、もう、現実を受け止めるしかないようだ。

いつまでもめそめそしていても仕方ない。
これはお前をもらってきたときから、
いつか必ず訪れる日だと覚悟していたのだから。
ちょっと、あまりに突然だったけど。

大丈夫、俺は何とかやっていく。
隣を見るでもなく、上を見るでもなく、下を見るでもなく
これは、俺の問題として処理する他ないのだろう。

あ、そうだ。少しだけ嬉しい話もあった。
俺たちのことがきっかけで、
里親募集で犬をもらったという報告が何件かあったんだぞ。
そればっかり伝えたかったわけじゃないが、
伝えたいことのひとつではあったからな。
ま、関係ないか、お前には。

はぁ。お別れの言葉か。
嫌だなぁ。嫌だけど、ここで俺が書かないわけにもいくまい。
いいたくないけど、さようなら、ばいばい、丸。

でも夢の中でもいいから、たまには逢いに来てくれないか。
待ってるから、俺。
じゃあね、丸。

穴澤 賢

追伸
メッセージをお寄せくださったすべての皆さま、
あいつにかわってお礼申し上げます。
そして、これまで愛読してくださっていたすべての皆さま、
本当に、どうもありがとうございました。

また、連載では常に富士丸のことを最優先に考えてくださり、
今回このようなページをわざわざ作ってくださった日経BPの
中田靖さん、山田真弓さん、並びに関係者の皆さんに心から
感謝いたします。

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