人を雇うと“おすそわけ感”が薄くなる!?

 ここで、ブランディングを考慮する前後の、彼らのコミュニケーションを比較してみたいと思います。

 下は3年前の商品に付けていたステッカーと、当時の宅配パックに同梱されていたレターです。有機であること、そして誰が作ったものかが分からなければ、という一心で作ったものです。

 一方、こちらが現在の商品用ステッカーとレターです。

 また、これは奥さんの手による加工品です。計画以上に収穫できた作物を貯蔵・保管し、“おすそわけする”という理念で作られた丁寧な逸品です。

[画像のクリックで拡大表示]

 いかがでしょうか、みなさん。以前と比べてコミュニケーションが整然とコントロールされ、きちんと彼らの理念が伝わるようになっていると感じませんか。

 このようにまとめると、彼らの事業がここまで順風満帆に来た印象を持たれるかもしれませんが、実際には苦労の連続でした。

 実績がない新規参入者に土地を貸してくれる自治体がなかなか見つからなかったり、作付けした作物に買い手が付かずに泣く泣く捨てる日々が続いたり、子供を保育園に預けている間に農作業を終えないといけないため、炎天下での作業を続けて体を壊したり。こういったことを乗り越え、歩みを進めてきた北原夫妻。そしていま、彼らの事業は1万5000平米の土地で約70種類の作物を育てるまでに成長しています。

 彼らはマーケティングの専門家ではありません。しかし、彼らの事例は事業家が志と信念を持って考え抜けば立派なブランドビルディングができるということを物語っているようで、マーケティングの世界に身を置くものとしてとても勇気が湧いてきます。

 最後に彼らの今後について少し述べ、今回のコラムを締めたいと思います。

 彼らはより顧客とダイレクトにコミュニケーションできる宅配を伸ばしていきたいそうですが、生産量を増やすには人を雇うことが必要。その是非について夫婦で議論しています。

 携わる人が増えると自分たちと野菜の距離が遠くなり、“おすそわけ”というコンセプトが薄まってしまうのではないか。そうはいっても規模を拡大し、やれるところまでやってみたい――。彼らがどのような結論に至るかはまだ分かりませんが、関心を持って見守りたいと思います。

[画像のクリックで拡大表示]

著 者

富永朋信(とみなが とものぶ)

プロフェッショナルマーケター。
日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。西友では同社のイメージを一変させるキャンペーンを連発した。ブランドの構造はカテゴリによって違うことに気付き、全てのカテゴリのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませている。座右の銘はたくさんあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。