「∞(むげん)プチプチ」などのヒット商品を生み出した高橋晋平氏は「TEDxTokyo」に登壇するなど、企画・アイデア発想の名手としても知られる。その高橋氏が世の中で話題となっている“トンガリ商品”をピックアップし、開発者に直撃。企画の源泉とアイデアの“転がし方”を探っていく。第2回のテーマは「円周率1000000桁表」。20年近く前に出版され、円周率が100万ケタまで延々と書いたあるだけなのに、いまだに某ネット書店ではたびたび品切れになる謎の本だ。著者の牧野貴樹氏に話を聞いた。

左が「円周率1000000桁表」著者の牧野貴樹氏、右が高橋晋平氏
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なんとなく面白いかなと思って(笑)

中身は円周率が100万ケタまで延々と書いてあるだけ
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高橋晋平氏(以下、高橋):どういうきっかけでこの本を出したんですか?

牧野貴樹氏(以下、牧野):最初はなんとなく面白いかなと思って(笑)。自宅のプリンターで30部刷って売ったら、すぐに全部売れまして。次に印刷屋さんに頼んでみようということになって、300冊くらい作って書店さんにも少し流し始めたんです。それで3年とかくらいかけて300冊が売れて、それで僕としては「面白いことしたな」と満足して終わりにしていたんです。だけど、ずっと注文が来るんですよ。
 一応ISBN(書店流通に必要な図書コード)を取っているからカタログにものっているし、Amazonにも一応掲載されているので注文が来るんですよ。「もう在庫がありません」と断っていたんだけど、あまりにずっと来続けるから、「また出そうか」ということになって出したら今度は思ったより大きく売れて……という感じですね。

高橋:巻末の印刷回数を見ると、この1刷が手作りで次が300で、ここからちょっと間が空いて、そのあとだんだんこう膨れていったと。

牧野:そうですね。

高橋:そして今は3.1415926刷という(笑)。

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高橋:そもそも大学生のときに円周率を計算していたのがきっかけとか。

牧野:大学の授業ではなく、趣味でやっていた感じですね。すごい昔の話なんですけど、PC-VAN(編集部注:NECが1986年4月から運営していたパソコン通信サービス)を使っていた時代で、まだインターネットがなかったころです。

高橋:不勉強で恐縮なんですけど、100万桁まで計算するのは当時どのくらい難しかったんですか?

牧野:当時でも今でもそうですが、ソフトなどに頼らずに100万桁を計算しようと思うと、結構大変だと思います。普通に計算すると15桁ぐらいでコンピューターの中で四捨五入されてしまうので。

高橋:どういうモチベーションで続けられたのでしょう? 純粋に数学が好きだからなのか、やってみようかという単純な興味なのか、できるんじゃないかみたいな挑戦だったのか。

牧野:別に数学がすごく好きというわけではなくて、どっちかというと、数学は苦手意識があるくらいの感じなんですけれども、小学校の授業で「円周率は3.14とされているけど、本当はその後もずっと続くんだよ」と言われたときに、「何が続くんだろう」って気になっていたのがたぶんあったんですね。
 それで大学にも入っていろいろな本を読んだりして難しいプログラムができるようになってきて、「じゃあ、ちょっとやってみようか」ってたまたまやって。最初は「円周率がたくさん計算できるプログラムができたよ」といって満足していたんです。そうしたら、友人から「何か本を出さない? 何でもいいんだけど」っていわれて、「円周率のデータがあるよ」って感じで。何か順番がひっくり返っている感じですね。

高橋:なるほど。

牧野:だから、読者がそんなにいると思ってなかった。最初の30冊もそんなすぐに売れると思っていなくて、「本としてあったら面白いかな」というくらいの感じだったので、こんなに売れるようになるとは全然思っていなくて。

高橋:売ろうとして作ったわけではないということですよね。

牧野:そうですね。

高橋:それが7年間で1万冊以上売れていると。

牧野:新刊でもないのにずっと平積みにしてくれている書店さんもあって。薄いから棚に差してしまうと見えにくいんですが、平積みにしておくとけっこう売れるみたいで。

高橋:値段は314円(笑)ですが、それでも1万冊も売れるなんて大変なことですよ。

牧野:書店の人とかに聞くと、数学書の中でこんなに売れる本は珍しいそうです。数学の本というのもちょっとおこがましい感じですよね。“数字の本”ですよね(笑)。

高橋:ところで、この暗黒通信団という出版社名は?

牧野:大学時代のサークルの名前です。こんな名前なので注文される方がけっこう苦労したらしいんですけど、本屋さんもお客さんに聞かれて「そんな出版社があるんですか?」という感じで、大きい年鑑みたいなものを持ってきて探して「あった」って(笑)。