数千年前から小麦を主食としてきた人類が、小麦から受けた恩恵がある

 そこでグルテンの摂取にメリット今回、ハーバード大学研究員、管理栄養士の佐藤佳瑞智先生にも話を聞きました。

 「物質としてのタンパク質の構造は、分子の大きさで見て1次(アミノ酸配列)から4次(いくつかのサブユニットが結合したもの)までありますが、食品=栄養という観点からはそれぞれ意味が違います。

 小腸上皮を通して体内に入れるのは、原則的にジ・トリペプチド(アミノ酸が2個ないし3個つながったもの)までですので、1次構造が重要です。生体内でいろいろなタンパク質を合成するときの基となるアミノ酸の補給という意味ではここが重要ですよね。特に必須アミノ酸は体内で合成できないので、9種類の必須アミノ酸をまんべんなく含んだタンパク質(ほとんどの動物性たんぱく質)は食品として優秀なわけです。

 例えば食物から摂取したタンパク質を全て消化することができて、すべてトリペプチド(アミノ酸3個)以下のアミノ酸に分解することができるなら、タンパク質をアレルゲンとする食品アレルギーは今よりずっと少ないはずですが、実際私たちの消化器官はそこまで完璧ではありません。

 未消化のタンパク質や大きなペプチド(アミノ酸の鎖)は免疫細胞の持つ抗体のエピトープ(抗体が認識する抗原の一部分のこと)となって免疫反応に作用するため、アレルギー反応を引き起こすことはご存知のとおりです。ここでは1次だけでなく2次構造(アミノ酸の鎖がとる、らせん構造やジグザグ構造、あるいは不規則な構造)、3次構造(2次構造がさらに折れ曲がった立体構造)まで問われますね。さらにある種のポリペプチド(アミノ酸が連鎖した化合物)は生理作用を持ちます。またトリペプチド程度の小さなペプチドでも、例えば血圧降下作用を持つといわれている牛乳由来のラクトトリペプチド(発酵乳から同定・分離された乳由来のトリペプチド〈アミノ酸3個の鎖〉2種の総称)など、タンパク質合成のためのアミノ酸供給源としてだけでなく、特定の生理作用を持つものもあるようです。

 そこで、グルテンおよびグルテンペプチドの作用ですが、もちろん消化を受け、小さなペプチドやアミノ酸になって、タンパク質合成の素材になります。これは数千年前から小麦を主食としてきた人類が、小麦から受けた恩恵の最たるものだと思います。たとえグルテンが栄養学的に価値の低いタンパク質であったとしても、アミノ酸源としては重要であり続けているわけです」(談)

 なるほど、やはり、単にアミノ酸スコアが低いからといって、私たちの食事から排除する必要はないのですね。

 グルテンをできるだけ排除しようとするグルテンフリーダイエットは、あくまでもセリアック病またはグルテン過敏症を持つ方には有効なダイエット法のなり得ますが、健常な方はグルテンの恩恵も忘れてはならないようです。

 動物性タンパク質を摂りすぎると、腎臓機能が低下するということが懸念されます。一番大切なのは、動物性タンパク質と植物性タンパク質を上手に組み合わせた食事を摂取することです。

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盲目的に完全排除しない

 グルテンフリーダイエットは、セリアック病またはグルテン過敏症には有効といえますし、乾癬、関節リウマチ、1型糖尿病およびその他の自己免疫疾患の方に有益である可能性があります。

 しかし健常な人の減量効果を支持するデータは、やはりないのです。

 実際、グルテンフリーの焼き菓子などは、脂肪と総カロリーが高くなることがあります。そればかりか腸内細菌、血圧調節、免疫システムなどに、かえって悪影響を与える可能性もあるというわけなのです。

 グルテンフリーダイエットが必要かどうか、個々の体質や健康状態と相談しながら、慎重に考える必要がありますね。グルテンも立派なタンパク質、重要な栄養源のはず。正しい知識と理解を得て、「盲目的に完全排除」といった行為に陥らないようにしましょう!

著者

大西睦子(おおにし・むつこ)

大西睦子

医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。