熟成肉と言えば欧米の食文化

 熟成肉がブームである。

 一定期間保冷庫の中で熟成させた肉は、タンパク質がアミノ酸に分解され、独特の旨味や風味が出る。このような熟成肉、ないしはエイジングビーフというカテゴリーは元々欧米のレストランでよく知られたメニューである。

 なぜ、熟成肉といえば、欧米なのか。私にとってそれを象徴するのが、漫画「美味しんぼ」での、海原雄山の言葉である。いわく、「日本人は霜降り信仰が強く、肉の本当においしい食べ方を知らない」「牛肉を食べるということに関しては、欧米人の方が文化としてはるかに進んでいる」。

 日本人は脂身がたくさん入った牛肉を好むが、欧米人は本来、牛肉の赤身のみを好む。その赤身を高級なレストランでは何週間もかけて熟成させ、旨味を増して付加価値を高めた上で、ステーキとして提供している。ちなみに、実は米国では、霜降りで柔らかい和牛が「Wagyu」という呼称で新たなブームになっているが、それはまた別の話である。

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 ニューヨークのブルックリンには、「ピーター・ルーガー」という老舗で予約のとれないステーキハウスがあり、ここのエイジングビーフのステーキを食べるのが、セレブたちにとっての楽しみの1つである。

 ピーター・ルーガーから派生したエイジングビーフのお店もたくさんある。有名なのはピーター・ルーガーで40年以上ステーキを焼いてきたシェフが独立した「ウルフギャング」というステーキハウスで、こちらは最近、日本の六本木に上陸して、やはり予約のとれないお店になっている。

 ウルフギャングの場合は、サーロインやフィレ肉を4週間、ドライエイジングという方法で熟成させる。

 具体的には、肉のかたまりを低温の冷蔵庫に入れて、風を当て続ける。風が当たると、肉の切り口がかさぶた状に固まるため、肉汁はかたまりの内部に閉じ込められるようになる。そして、肉塊の内部では熟成がはじまり、タンパク質が分解され、旨味が増していくのだ。

 このようにして完成したエイジングビーフは、実際、とてもおいしい。

 私は年に4、5回、仕事でニューヨークに出張するのだが、その度に、ウルフギャングやキーンズステーキハウスなど有名なステーキハウスに出かけることにしている。

 これらのステーキハウスの人気のメニューが、サーロインとフィレを両方楽しめるTボーンステーキだ。どちらの肉も、日本人的に言えば歯ごたえのある肉なのだが、欧米人は赤身の牛肉の歯ごたえも楽しむ。「霜降り肉は柔らかくておいしい」と考える日本人とは全く異なる牛肉の楽しみ方がここにある。