ビーマル1遺伝子がないマウスはより体重が増加

 研究者らは、脂肪細胞にビーマル1遺伝子のないマウスを使って、食事などの概日リズムを観察しました。すると、ビーマル1遺伝子のないマウスは、寝る時間帯に食事の摂取量が増え、同じカロリー摂取でも、規則正しい生活(コントロール)のマウスと比べて体重が増加したのです。

 さらに、ビーマル1遺伝子のないマウスと、コントロールのマウスに、同じ高脂肪・エネルギー食を与えたところ、ビーマル1遺伝子のないマウスはより体重が増加しました。このマウスの行動の変化は、1955年に、アメリカのアルバート・スタンカード博士によって提唱された「夜食症候群(Night Eating Syndrome)」と似ています。

 また、ビーマル1遺伝子のないマウスは、コントロールのマウスに比べて、レプチン、中性脂肪のレベルが上昇していました。レプチンは、脳の満腹中枢に「お腹いっぱい」と信号を伝えて、食欲を抑えてエネルギーを消費させ、過剰なエネルギー蓄積を防ぐ、ホルモン様タンパク質です。脂肪細胞に備わっている体内時計が壊れると、このリズムが乱れ、不適切な時間に食事を摂取したくなるのです(レプチンの分泌が過剰になると満腹中枢が反応しなくなり、食べ過ぎてしまうことは、前回解説した通りです)。

 夜行性動物である野生型マウスは、通常、夜のはじめに食事をし、その後血糖が上昇します。ところが、ビーマル1遺伝子のないマウスは、このリズムが乱れ、通常のマウスが寝ている時間帯にも食事をしていました。

 こうしたことから研究者らは、脂肪細胞の体内時計が脳と情報をやりとりすることが、食事のタイミングにおいて重要な役割を果たすことを示したわけです。

 逆に言うと、不規則な食生活が、体脂肪に生来備わっている時間を感知するシステムを混乱させ、結果、脂肪が蓄積しやすくなり、肥満につながる、というわけです。

生活習慣や環境が変わっても、体内時計は24時間以外の周期にはならない

 普段から概日リズムに沿った規則正しい生活を送っていれば、当然、睡眠・覚醒のサイクルと体内時計が同調しているはずです。

 英国サリー大学の研究者らは、この同調が中断されたときに、体内時計を調節している時計遺伝子が影響を受けるかどうかを実験し、医学雑誌「PNAS」に報告しました。




 実験は、健常な22人の男女(平均26.3歳、男性11人、女性11人)を対象に行われました。

 対象者は24時間周期ではない睡眠覚醒リズム、具体的には28時間周期で、自然の昼夜(明暗)サイクルではない環境で3日間生活。研究者らは実験後の対象者の血液サンプルを集め、トランスクリプトーム解析という手法を用いて時計遺伝子の「転写産物」を調べました。これは、細胞内でタンパク質が合成される過程で、遺伝子の情報を写し取る「転写」が起こるため、細胞内の全転写産物の量を測ることにより、生体細胞内での遺伝子の発現状況を網羅的に把握する手法です。

 解析の結果、乱れた睡眠リズムのもとでは、血中の概日リズムに基づく転写産物はヒトの通常時の6分の1に減少していました。つまりそれだけ睡眠リズムの乱れは時計遺伝子の発現への影響が大きいのです。

 転写産物に影響があるということは、遺伝子情報を伝えるメカニズムに大きく作用しているということ。これは体が必要とするタンパク質が適切に作られない原因となりえます。体を構成したり活動したりするのに必要なタンパク質が正しく作られなければ、体を傷つけるにも等しい事態です。体を弱らせ、老化や疾病につながる可能性があります。

 生活習慣や環境が変わっても、体内時計が24時間以外の周期にリセットされるわけではありません。今回の実験中でも体内時計は約24時間周期を持続していました。メラトニンの分泌時間帯を考えれば、不規則な夜更かしは大敵。翌朝長く寝ていられるからと言っても、睡眠リズムは乱れてしまいます。今日から不必要な夜更かしはやめ、早く寝ることが太らないためには重要ですね!

Photo:Witthaya Phonsawat
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著者

大西睦子(おおにし・むつこ)

大西睦子

医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。