食、医療など“健康”にまつわる情報は日々更新され、あふれています。この連載では、現在米国ボストン在住の大西睦子氏が、ハーバード大学における食事や遺伝子と病気に関する基礎研究の経験、論文や米国での状況などを交えながら、健康や医療などさまざまな疑問や話題を、グローバルな視点で解説していきます。
 第6回は「STAP細胞」報道について。

 ご存じの通り、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(理研CDB)の小保方晴子・研究ユニットリーダーらによる「STAP細胞」の報告は、世界中の注目を浴びています。博士らは、細胞にストレスを与えて体細胞を初期化することで、すべての細胞に分化できるSTAP細胞を作製しました。それ以前、2012年に、ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学の山中伸弥教授は、あらゆる細胞に変化できる万能細胞のiPS細胞を作製しました。両者の最大の違いは、iPS細胞は胎盤の細胞には分化できないのに対し、STAP細胞は、胎盤の細胞にも分化できること。STAP細胞のほうがiPS細胞より受精卵により近い万能性を持つのです。

 もちろん、このSTAP細胞にも、例えば、今回成功したマウスでの結果が、ヒトの体細胞でも同じように作製できるか、他の研究室でも同じ結果が得られるかなど、大きな課題はあります。ですからSTAP細胞がiPS細胞のように、臨床研究が始まるまでには、これからの実験の積み重ねが必要で、世界中の科学者が大きな期待を寄せています。

 さて、STAP細胞の研究は、2014年1月29日、英国の超一流科学誌「Nature」に発表されました(関連リンク)。米国のメジャーなメディアは、発表直後一斉に、STAP細胞に関する報道を開始しました。

 例えばCNNでは、「Stem cell breakthrough may be simple, fast, cheap」というタイトルで、このニュースを報道しています。まず幹細胞における、これまでの科学の進歩や政治的議論の歴史に関する写真を掲載し、今回の発見が、その歴史にいかに飛躍的な成功をもたらしたかを説明。

 ストレスで初期化するSTAP細胞の作製法、これまでの幹細胞の研究との違い(STAP細胞の作製は、受精卵を壊したり、遺伝子操作をする必要はない)、今後の問題点(若いマウスで成功したこの研究が人で応用できるか、安全性など)、将来的ながんなどの治療への応用への期待を論じています。

 ニューヨークタイムズでも、「Study Says New Method Could Be a Quicker Source of Stem Cells」というタイトルで、同様な報道をしています。記事の最後には、米サンディエゴのスクリプス研究所(The Scripps Research Institute)のジャンヌ・ローリング教授の「細胞の運命は、私たちが考えていたよりもはるかに複雑です。少なくともいくつかの細胞は、 刺激に対して特に敏感で、完全にその性質を変更することができます」というコメントを掲載。さらに、カリフォルニア大学サンフランシスコ校のシェン・ディン博士の、「今回の結果は、幹細胞が腫瘍を形成する可能性があるので、ストレスが癌のリスクを増加させるという説明に役立つかもしれません」というコメントも続きます。このようなニュースにおいて、専門家たちが次に何を考えているかを示すことは、記事の重要な論点になります。

 このようにSTAP細胞の発見は、ほかにも米国のたくさんのメディアで報道されていますが、どのニュースの論点も大きくは「何が新しい発見なのか」「発見の何が画期的なのか」「何が問題点なのか」、そして「将来的にどう応用されていくのか」という4点に絞られていると思います。




 もちろん日本国内でも、STAP細胞は大きなニュースになりましたが、同時に小保方博士自身に対する報道も過熱しました。その結果、研究ユニットでは、真実でない報道や取材による小保方博士自身や周囲へのプライバシーの侵害があったとし、その対応に追われ研究活動に支障をきたしている旨と報道関係者への理解と自粛を求める声明を発表しました。しかもこの自粛を求める声明に関してさえも、いろんな意見が出ています。しかしながら、米国ではSTAP細胞そのものの解説はあっても、小保方博士自身に関しては、ほとんど報道されておらず、日米の報道に、温度差を感じずにはいられません。

 では米国の報道は、なぜ、日本の報道と違い、個人のプロフィールに触れていないのでしょうか?