放射性セシウムを消す微生物を発見したらノーベル賞は確実

 ここで放射性セシウムを消せる微生物がいたと仮定しよう。それは、1000万倍ものエネルギーの差を乗り越えて、なにかうまい手を使って原子核をいじくる物理的方法が存在することを意味する。そんな方法があるなら、あんな大きな道具立てを使わずに、家庭の魔法瓶レベルで簡単かつ安全に原子力発電を行えるようになるだろう。これは世界のエネルギー事情を一変させる、とてつもない大発見だ。世界史に残る偉業だ。

 もしもこんな微生物を発見したのなら、やるべきことはただひとつ。誰にも反論できないぐらい徹底的に実験を行って、その結果を「ネイチャー」なり「サイエンス」なりの一流論文誌に投稿することである。おそらく数年のうちにノーベル賞がもらえるし、世界を一変させた偉人として、世間から評価されるようになるだろう。

 そうせずに、被災地で「微生物で放射性セシウムを消せます」と講演したり、微生物を売っているということは、それだけで偽物であると断言してよい。

 「放射性セシウムを消す」ではなく「環境中のセシウムを集めて濃縮する生物」は、ひょっとしたらいる可能性があり、現在も研究や実験が続いている。

 しかし、セシウムという元素は、生物が広く細胞内で利用しているカリウムという元素と化学的な性質が似ている。生物はカリウムをどんどん摂取しては排出していて、溜め込まない。だからこれまでに見つかったセシウムの生物による濃縮は、水銀や鉛の生物濃縮に比べるとずっと、倍率が低い。例えば魚類の生体中で水銀は10万~100万倍も濃縮される。いっぽう、セシウムはこれまでに見つかった例で、せいぜい100倍程度でしかない。一時期期待されたひまわりも、実用化できるほどセシウムを濃縮しないことが明らかになった。

 だから「セシウムを濃縮する微生物」が存在したとしても、除染には目覚ましい効果はないだろう。したがって売り物としては限りなく無意味に近い。

 福島第一の事故では、放射性のセシウム134とセシウム137がほぼ同じ量放出されたと推定されている(半減期5日のキセノン133と、同8日のヨウ素131はとっくに消えてしまっている)。セシウム134は半減期が約2年、セシウム137の半減期は約30年。事故から3年近くを経て、セシウム134はもう半分以下になっている。以後2年ごとに半分に減っていって、全部消えるまでには20年程度かかると予想されている。一方セシウム137は全部消えるのに300年はかかる。

 ただし、これから分かるように30年後には、セシウム134は全部消え、セシウム137も半分になる。海に流出し、拡散する分も考えると、被災地の放射線量は1/4以下になることが期待され、実際に測定値もそのような方向で推移している。

 原発由来の放射性物質を減らす一番確実な方法はひたすら時間の経過を待つことだ。しかし、待つことで失われる“故郷の時間”はあまりに重く、長い。

(文/松浦 晋也=科学ジャーナリスト、ノンフィクション作家)