米国のトランス脂肪酸摂取を減らした訴訟

 さて、規制案発表から60日間経過した今、最終決定はどうなったのでしょうか?

 2013年12月17日に、FDAは最終決定を、2014年3月8日まで延期しました。主な理由は、食品業界が、国際的な取引先と相談するための時間が必要だからです。こうなると、トランス脂肪酸の規制が決定されるかどうかの先行きは不透明です。ただし、FDAによると、すでに米国人が1日に摂取するトランス脂肪酸の量は、2003年には4.6gだったものが、2012年には約1gに減ったといいます。これは、米国では約10年前から、トランス脂肪酸の問題がメディアなどで議論されてきたことが影響していると考えられます。

 きっかけは、2003年に、ナビスコ社「オレオ」に対し、「クリーミーで歯切れのいいオレオのトランス脂肪酸は、子供が食べるには危険だ」という訴訟が起きたことです。このとき、クラフト社(ナビスコ社の現在の親会社)はオレオからトランス脂肪酸を排除するか減らすと発表し、訴訟が取り下げられました。

 また同2003年には、マクドナルド社のトランス脂肪酸に対しても訴訟が起きました。マクドナルド社は、2002年にトランス脂肪酸を減らすと公表したにもかかわらず改善せず、これに対し訴訟が起きたのです。結果、マクドナルド社は、トランス脂肪酸についての教育普及のためにアメリカ心臓病協会に700万ドル(約7億円)、トランス脂肪酸の広告活動に150万ドル(約1.5億円)を寄付することになりました。

 その後、米国では2006年から加工食品の栄養成分表示に、飽和脂肪酸とコレステロールに加えてトランス脂肪酸量の表示を義務付けています。そして、マクドナルドやバーガーキングのフライドポテト、アップルパイをはじめ、スターバックス、KFCなど大手食品メーカーやレストランチェーンが、トランス脂肪酸の使用を中止あるいは低減しました。

 さらに、ニューヨーク市などの地方自治体は、トランス脂肪酸の規制を始めました。ニューヨーク市は2006年12月、ニューヨーク市内の飲食店や売店で提供される食品について、トランス脂肪酸の使用規制を決定しました。続いてカリフォルニア州は2008年、トランス脂肪酸の段階的使用禁止を決定しました。

 FDAによるとこうした動きにより、米国の消費者のトランス脂肪酸摂取量が減ったといいます。

 とはいえこれで安心できるわけではありません。自分が“質のいい脂質”をしっかり摂取しているかを知る必要もあります。

 では質のいい脂質って何でしょうか?

 脂質は私たちにとって、細胞膜やホルモンを作るための材料となり、主要なエネルギー源として貯蓄され、とても重要な栄養素です。脂肪酸は脂質をつくっている成分で、その科学的構造から、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の2つに分類できます。

飽和脂肪酸は動脈硬化の原因、不飽和脂肪酸はコレステロールを調節

 飽和脂肪酸はバターやラードなど、肉類や乳製品の動物性脂肪に多く含まれていて、常温では固体で存在するため体の中でも固まりやすく、しかも中性脂肪やコレステロールを増加させる作用があるため、血中に増えすぎると動脈硬化の原因となります。

 不飽和脂肪酸は、魚類や植物油に多く含まれ、常温では液状で存在します。エネルギー源や身体の構成成分となるほか、血中の中性脂肪やコレステロールの量の調節を助ける働きがあります。

 不飽和脂肪酸は、さらに一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸の2種類に分類されます。一価不飽和脂肪酸は、オリーブ油に多く含まれるオレイン酸がその代表で、悪玉コレステロールを減らす働きがあります。

オメガ3系脂肪酸の豊富な食品を1品摂取

 最近注目の多価不飽和脂肪酸は、体の中で合成できないため食べ物からとらなければならない必須脂肪酸です。

 多価不飽和脂肪酸のうち、魚の油に多く含まれるIPA(イコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、えごま油やなたね油などに含まれるα-リノレン酸を代表とするオメガ3系脂肪酸が、細胞膜の材料となり、中性脂肪を減らし、善玉(HDL)コレステロールを増やすことで知られています。

 一方、大豆油やコーン油など一般的な植物油に多く含まれるリノール酸を代表とするオメガ6系脂肪酸も、体に必須で悪玉コレステロールを減らしますが、半面、摂りすぎると善玉コレステロールも減少させてしまいます。

 オメガ3系と6系の摂取バランスは「1:2」~「1:4」程度が適切であると言われ、伝統的な日本人の食事ではこれが保たれていましたが、昨今の欧米型の食生活でオメガ6系の摂りすぎが問題になっています。

 飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食品を避けて、魚、ナッツ、そしてキャノーラ油など、オメガ3系脂肪酸の豊富な食品を、毎日少なくとも1品は食べてくださいね。

著者

大西睦子(おおにし・むつこ)

大西睦子

医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。著書に『カロリーゼロにだまされるな――本当は怖い人工甘味料の裏側』(ダイヤモンド社)。