今回のテーマ:月探査。地球に最も近いとはいえ、38万4000kmも離れている月。中国が2013年12月に無人探査機を送り込むことに成功したが、これは実に38年ぶり。1976年に旧ソ連が月へ送り込んで以降、途絶えていた。

 2013年12月14日、中国3機目の月探査機、嫦娥3号が月面の虹の入り江に軟着陸した。無人探査機の月面着陸は旧ソ連のルナ24号以来38年振り。中国は、ソ連、アメリカに次いで月面に探査機を軟着陸させた3番目の国となった。翌15日、嫦娥3号から無人探査車“玉兎号”が発進した。嫦娥3号と玉兎号は、2014年1月現在、月面の探査を続けている。

 いったいなぜ、中国は月探査に力を入れるのか。メディアには「中国の国威発揚」「月面資源を狙っている」といった分析が出たが、それは本当なのだろうか……。

中国の狙いは核融合の燃料?

 月の資源としてもっとも有名なのが、ヘリウム3だ。通常のヘリウムは、原子核が2つの陽子と2つの中性子から構成されるヘリウム4というものだ。それに対してヘリウム3は、原子核が2つの陽子と1つの中性子から構成されている。

 月面には太陽から太陽風という形で吹き出したヘリウム3が、何億年もかけて吸着されていることが、アポロ計画で持ち帰られた月の石の分析から分かっている。地球にはヘリウム3はほとんど存在しない。月ならではの資源といえる。

 ヘリウム3は核融合の燃料となる。1個の重水素原子核と、1個のヘリウム3原子核とが核融合反応を起こすと、1個のヘリウム4原子核と、1個の水素原子核(陽子)となり、その過程で莫大なエネルギーを発生する。

 実はヘリウム3の核融合は、放射性廃棄物をほとんど出さない“きれいな核融合”だ。現在研究が進んでいる核融合は、重水素と三重水素の原子核が融合するD-T反応というものである。ところがD-T反応では高速の中性子が発生する。中性子は電荷を持たないので磁場で閉じ込めることができない。核融合炉内の壁面に衝突し、壁面の元素を放射性物質に変えてしまう。だから核融合炉を廃棄するときに、けっこうな量の放射性廃棄物が発生してしまう。

 一方重水素とヘリウム3の核融合は、発生するのは電荷を持つ陽子だ。陽子は磁場で閉じ込めることができる。放射能を持たない物質を放射能を出すよう変えてしまう「放射化」は起こらず、放射性廃棄物も発生しない。それどころか、うまく磁場を使うと陽子の流れからエネルギーを直接、高効率に取り出すことも考え得る。

 このような事情があって一部では、「中国の月探査は、月面のヘリウム3資源を狙ったものだ」と報道された。

 が、好事魔多し。D-T反応は、核融合燃料を1億℃ほどの高温の電荷を帯びたガス――プラズマという――にすれば達成できる。ところが重水素とヘリウム3の核融合反応には、プラズマの温度を10億℃近くまで高くする必要がある。現状の核融合研究装置でも、5億程度のプラズマ温度が達成できているが、核融合の持続に必要な条件は、プラズマ温度だけではない。プラズマ温度、プラズマ密度、閉じ込め持続時間の3条件が臨界を超えなくては、核融合反応は続かない。

 ヘリウム3の核融合反応を持続し、安定してエネルギーを取り出せる炉を建設するためには、現在研究中のD-T反応の核融合炉よりも一段階、レベルが高い技術が必要になるだろう。D-T反応の核融合炉は、現状では2050年代に実用化するだろうとされている。このことから、ヘリウム3の核融合炉はどんなに早くても21世紀後半、場合によっては22世紀の技術ということになるだろう。

 22世紀の資源のために、今から月探査を実施するというのは、確かに国家戦略としてはありだろうが、それならばむしろ核融合技術にお金を振り向けるほうが先でないかと思える。少なくとも、今の段階で月探査を進める理由としては弱い。