昭和へタイムスリップする「都橋商店街」にも女子店舗

 そして本稿の“トリ”をとる女子店舗がこちら。2012年6月、二宮夏美さんが弱冠28歳でオープンした「やきとり コッコ堂」だ。眼下を大岡川が流れる都橋商店街の1階にある。広さは3坪ほど。L字型カウンターがあり、夏美さんは客の目の前で肉を焼き、酒を作り、笑いの渦をおこし、店に漂う“ほろ酔い感”の中心にいる。きびきびと立ち働くその姿を見ながら、客はやきとりとお酒を楽しみ、1日の疲れを忘れていく――と、ここまで読んだ諸兄の気持ちが(たぶん)動いたように、コッコ堂は男性客の占有率が極めて高い。

仕事帰りの男性客が、夏美さんのカウンターを囲む「やきとり コッコ堂」
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都橋商店街1階に入る「やきとり コッコ堂」の外観。時計店がテナントだった時期もあるようだ
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コッコ堂が入る「都橋商店街」は、昭和39年に開業した横浜市営の共同店舗。全62軒。かつては服屋や靴屋、時計屋などの物販店が入り、にぎわったという。現在は飲み屋がほとんどを占める
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都橋商店街には男女別の共同トイレがある。各店舗で保管するカギを借りて、用足しに行く。これは男性用トイレの鍵
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これは女性用トイレの鍵
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「やきとり屋は女性がやる方が有利です」

 やきとりの注文は「オーダー用紙」に名前も記入してなっちゃんに渡す。客に「なっちゃん」と呼ばれる夏美さんは、上司みたいなおじさんに向かって、「シンちゃん、はい、ハツとレバーお待たせ!」とかいってアツアツを手渡す。常連のシンちゃんは悪い気はしないだろうなあ。取材時に居合わせた、これまた常連の男性客にこの店の魅力を尋ねると、「店主の気さくな感じと、やきとりがうまい、隣同士お友達になれる」、そして「なっちゃんは僕らの太陽!(笑)」と叫んだ。

コッコ堂のやきとりオーダー用紙。鶏は信玄どりを使用
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 夏美さんは、20代前半から野毛界隈で飲み歩いていたという筋金入り(?)のお酒愛好家。開業前は雑誌の広告営業ウーマンだったが、若いころから「ゆくゆくは飲食店をやりたい」と野心を抱いていた。「飲食店に思い入れが強いんです。アルバイト時代、接客ひとつでお客の気分が変わるのが分かったから。自分次第で人が楽しんでくれるのが分かる。だから、雇われて働くのではなくて、自分の好きにやりたいと思っていた」。“野毛”に出店したのはなぜ? 「広告営業でいろんな街を回ったなかで、野毛は、飲んでいる人も働いている人も一番生き生きしていたから。どの街にいる人よりも楽しそうに見える。だから、この街が好きなんです」。なるほど。

 で、なぜ“やきとり屋”なんですか? 「やきとりは万人受けしますよね。それにフレンチみたいに修業が必要じゃないな、と」。焼き方の基本や仕入れの流れは知り合いの店で働きながら2カ月間学び、あとは独学、実践という。苦労や大変なことは? 「ないです。楽しいだけ(笑)。やきとり屋は女性がやる方が有利です」。お客が店に入りきらないことも? 「女性がやってるやきとり屋がないから」。みなさん、おいしいと褒めてらっしゃる。「いやぁ、トリに塩振ってマズいわけない(笑)」。