「架空の新聞記事を作る」

 飯野さんが最初にしてくれたことは、「架空の新聞記事を作る」ことでした。サービス発表の記者会見を受けた記事という想定で、サービスの概要を消費者に分かりやすく伝えるというものです。

 これが非常に重要なターニングポイントになりました。というのも、この架空の記事をきっかけに、具体的なサービスの方向性が示されたからです。

 ケータイと自販機を連動するサービスという概念しかない状態というのは、なかなか厄介です。前述したように、この概念の上では本当に多種多様なアイデアが展開できそうな半面、あまりに色々なことが想定できるために、具体的なサービス像を描き出したり絞ったりするのが難しかったのです。

 また、3つの企業がそれぞれの意志や夢を持っていたので、その方向が当初は微妙に不一致を起こしていたという背景も、サービスの具体像を形にするというステップの障害になっていました。このような状態だと要件定義がおぼつかないのでバックエンドシステムの開発に着手することはできませんし、自販機と連携するiモード上でどのようなサイトをどのようなユーザーインターフェースで作るかということも不明な状態でした。

 飯野さんが書き起こしてくれたこの記事は、とにかくユーザーインターフェース視点でのサービスの姿をイメージできたので、3社がその方向性について合意し、具体的な開発に着手するアクセルの役割を果たしてくれました。こうして、単なる夢物語だったこのサービスを形にする作業が始まったのです。

 新聞記事の次に飯野さんが提示したのは、「夜の都内に自販機がポツンと佇んでいる絵」でした。

 その絵の中の自販機は右半分が白く光っており、その光っている部分がコカ・コーラのダイナミックリボンを模したデザインになっていたのです。まさにクールとかカッコいいといった形容がピッタリくるものでした。そのカッコよさは、メンバーの「このプロジェクトを形にしたい」という強い求心力の源になりました。

 それまでメンバーのもとにあったのは、基本的なアイデアとそれにもとづくサービス内容定義だけでした。サービスが定義できたことは実のところ大きな進歩でしたが、それだけでは「これができたときにプロジェクトは完成する」という目に見える目標はまだ存在しない状態でした。

 しかし、この絵がその役割を果たしてくれました。“目に見えるゴール”を飯野さんはプロジェクトメンバーに示してくれたのです。

Cmode対応自販機「シーモ」のデザインイラスト
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