厚生労働省にとっても財務省にとっても都合のいい真実

 では、税収はどうかというと、増税後の2011年に激増したたばこ税収は2012年になっても依然順調なままのである。ここが以前の値上げ後の税収減とはトレンドが変わった点である。

 値上げの翌年の2011年度のたばこ税の期初の予算額は8160億円だった。しかし、決算をしてみると1兆315億円と、21世紀に入って初めてたばこ税の税収が1兆円を超えてしまった。

 2012年度の当初予算はそこからやや控えめに、9450億円のたばこ税収入が計上されていた。しかし、2012年12月時点での税収の進捗は7012億円。昨年度は同じ時期に7016億円の税収だったことを考えれば、今年の税収は昨年とほとんど変わっていない。つまり今年も大幅に予算を上回り、今年度のたばこ税収も1兆円を超える見込みなのである。

 財務省の税収データを見てみよう。実際に考えてみればすぐにわかることだが、2010年のタバコの値上げ分の大半が税金だ。値上げでタバコ自体の売上高が増えているのであれば、税収はそれを上回る勢いで増えているというのが当然の結論である。

 計算をしてみるとこうなる。値上げ前と値上げ後でタバコの単価は1.3倍になったが、その内訳の税額部分は1.4倍に増えている。そのためタバコの売上高は9%増でも、税収増は17%増になる計算だ。そして実際の財務省の税収データを見ると、その通りの税収増になっていることがわかるのである。

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 つまりここにきて、それまで愛煙家の唯一の味方であった財務省が、

 「まだもう少し値上げしても税収は増えそうだ」

 と、需給のメカニズムの変化に気付いてしまったのだ。

 さて、ここで、とどめとなる不都合な真実を紹介しよう。

 なぜ欧州では日本以上にタバコの価格が高いのか。理由はタバコの値上げは収入が少ない若者の喫煙者から先に振り落とすことがわかっているからだ。

 中年以上の喫煙者は値上げにも仕方なく付き合う、タバコを吸い続ける。しかしタバコをこれから吸おうという20歳の青少年や吸い始めて間もない若者はタバコが急激に値上がりすると、「だったら、吸うのをやめよう」という行動を起こす。この現象はどこの国でも共通らしい。

 米国ではタバコの価格が10%値上がりすると喫煙者全体は4%減るが、10代の若者(吸っていいのかという話は別にして)については12%も喫煙人口が減ることがわかっている。つまり愛煙家にとってのこの極めて不都合な真実は、いまや厚生労働省にとっても財務省にとっても実に都合のいい真実になってしまったのである。

著 者

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)

 百年コンサルティング代表取締役。米国公認会計士。東京大学工学部物理工学科卒。1986年、ボストンコンサルティング入社。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業。主な著書に『戦略思考トレーニング』(日本経済新聞出版社)、『NARUTOはなぜ中忍になれないのか』『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』(以上、朝日新聞出版)などがある。