価格弾力性が1より小さいタバコの真実

 タバコの販売本数は、月次で社団法人日本たばこ協会が発表している。そのデータを見ると、増税前の2009年度の日本におけるタバコの販売総本数は2339億本だったが、大幅増税後の2011年には1975億本と約16%も減少していることがわかる。

 ここでたばこ増税の価格弾力性を分析してみたい。ただし、2011年のデータが東日本大震災の影響を受けていることや、値上げ直前の買いだめの影響があることなども考慮して、比較時期を直近の2012年度第三四半期(10~12月)と、値上げの1年前の2009年度第三四半期とで比較してみることにする。

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 分析をしてみると、愛煙家にとって不都合な真実が浮かび上がる。タバコの単価が増税前と増税後で3割も値上がりし、その結果、タバコの売り上げ本数は約16%も減少していることが確認できる。この数字は結果的には2011年のデータと同じで、タバコに関しては震災の影響はあまり大きくなかったことがわかる。

 この2つの数字から、タバコの価格弾力性の数値を導き出すことができる。計算してみると、タバコの価格弾力性は0.54と、1より小さい。これは何を意味するのか。弾力性が1より小さい商品は値上げをした方が売上高が拡大するのである。

 一般に、生活必需品の価格弾力性は1より小さい。たとえば文房具の価格弾力性は0.3で、牛肉の価格弾力性は0.4という具合だ。これらの商品は値上がりになったからといって買わないわけにはいかない。そのため、単価の上昇ほど需要は減らないのである。

 逆に価格弾力性が1より大きい商品は、値上げをすると需要が激減する。映画、旅行、外食といった消費は皆、価格弾力性が1より大きい。こういった商品やサービスは値上げをすると市場が縮小してしまう。

 さて、タバコの話に戻るが、実は2006年までの“ちまちました”たばこ税の増税は税収を増やさないことがわかっていた。

 1998年に増税で、マイルドセブンの価格を220円から250円に値上げしたところ、1999年の税収はやや増えた。しかしその後、禁煙する人が増えたとみえて、2000年から2002年にかけて税収は減少した。

 そこで2003年に増税したところ、また禁煙する人が増え、2005年の税収は減少した。2006年の増税でかろうじて増えた税収も、2009年には激減し、いよいよ国税と地方税をあわせた税収が「2兆円を割り込んでしまうか?」というところまできていたのだ。

 これは厚生労働省の「喫煙人口を減らしたい」という目的にはかなっているのだが、安定した税収が欲しい財務省にとってはよくない結果だった。そしてこのトレンドのままであれば、たばこ税の値上げに財務省は難色を示していたはずなのだ。

 ところが2010年のたばこ税の大幅増税でこのトレンドは逆転してしまった。そもそもこの数十年来、世の中は喫煙者にとってどんどん肩身が狭い世界になってきた。そのため生半可な喫煙者のほとんどは禁煙してしまい、今や残っているのは筋金入りの喫煙者しかいない。

 高齢となった私の父などは、もはやタバコを吸わない人生など考えられないという状態だ。タバコがいくら値上がりしても、生活態度を改めるわけにはいかない。そういった人たちがタバコの価格弾力性を1よりも下に下げているようなのだ。