アーティストが直面する現実

 それでは、この定額聴き放題サービスの普及はアーティスト(実演家)にどのような影響を与えるだろうか。それは収入の低下にほかならない。音楽の対価がどんどん安くなるのだから、それは当然である。

 しかし、観念的に明らかであるその事実も、具体的な数字を突きつけられるとより深刻に考えざるを得ない。昨年暮れに、米国のZoe Keatingというモダンスタイルのチェロ奏者がネット上で定額聴き放題サービスから得た収入の詳細を公開したが、その内容はショッキングの一言である。

 彼女の曲は、「Pandora」という定額聴き放題サービスで昨年のうち6カ月で150万回以上ユーザーに聞かれたが、そこから払われた収入は1653ドル(約15万5400円)である。

 また、彼女の曲はスポティファイでは昨年の間に13万1000回ユーザーに聞かれたが、払われた収入はわずか548ドル(約5万1500円)である。即ち、スポティファイについて考えると、ユーザーが彼女の曲を1回聞きいたときに彼女が得られる収入は0.42セント(約0.4円)なのである。

 この数字は恐るべきものと考えざるを得ない。米国では、典型的なアーティストの場合で、アップルのiTunesからユーザーが99セント(約93円)でそのアーティストの曲を1曲購入したとき、アップル、レコード会社、作詞家・作曲家などの関係者の取り分を除いた後、だいたい7~10%、即ち6.9~9.9セント(約6.5~9.3円)のロイヤリティー収入を得ていた。

 この金額自体も、CDの販売から得られるロイヤリティー収入に比べるとかなり少ないのだが、ストリーミングの定額聴き放題サービスが普及すると、それが更に激減するのである。例えて言えば、音楽の提供方法が「CD→課金ダウンロード→定額ストリーミング」とシフトするに伴い、アーティストのロイヤリティ収入も「ドル→セント→1/10セント」と桁が一桁下がる形で低下しているのである。