蝋人形について その2

 意外と手こずったのは、蝋人形の撮影。当然ですが、動かない(笑)。それをいかに艶かしく撮るかがこの話の肝ですから。ただ、何の文句もいわず何時間もじっとそのままで居てくれたので(笑)、そういう意味では助かったかな。

 (蝋人形の)股間から秘密のメモが出てくるっていうのは、裸なのでほかに隠し所がなかったからです(笑)。そのメモがきっかけになって、蝋人形師のアトリエに導かれることにもなるんだけど…、きっとまともな人なら足の裏に制作者の名前とかを書いたりすると思うんです。けど、「そんなところに隠しちゃう」っていう、常識的にちょっとオカシイ感じも出したかった。

 多田(瑛太)と行天(松田龍平)が訪れたアトリエですが、あれも本物です。日本でほんの数名しかいないという実際の蝋人形師が持つ実際のアトリエを貸していただきました。実はそこの主である蝋人形師のお兄さんが(劇中に出てくる)蝋人形を作った方でもあって。いろんな意味で人のつながりを感じるというか、リアリティーのある画は撮れたんじゃないかなと(笑)。

麿赤兒さんと正名僕蔵さん

 ドラマでは蝋人形師を麿(赤兒)さんに演じてもらいました。映画版で麿さんは別の役をやられていたので、迷いもありましたが、蝋人形師として説得力のあるビジュアルを持つ役者さんは誰だろう…って考えるほど、麿さんしか浮かばなかった。念のため、「パラレルワールド的な作品なので…」と説明しました。そうしたら、あっけらかんと、「ああ、分かった。言われた通りにやるよ」って笑って受けてくれました。

 終盤はややディープな展開にもなりますが、1つのエピソードに“笑える”“濡れる、もしくは立つ”、そして“泣ける”の3つの要素は入れたいなというのはあります。そういうバランスを考えたとき、(劇中で)蝋人形のモデルになった女性を母親に持つ、逸見亀十朗役は正名(僕蔵)さん(写真下)以外にいないなと思いました。正名さんなら、複雑な過去を背負って母親を憎みながら生きてきたとしても重くなりすぎないし、そんな母親そっくりの蝋人形を目の前にして感情が爆発してしまい思わずつばを吐きかけても、トゥーマッチにならない。ほかの役者さんだったら、きっと違ったものになっていたと思います。

大根仁(おおね・ひとし)
1968年12月28日生まれ。東京都出身。オフィスクレッシェンドディレクター。『劇団演技者。』『去年ルノアールで』『週刊真木よう子』『湯けむりスナイパー』など深夜を中心にエッジの立ったドラマを多数手がけ、熱烈なファンを持つ。演出・脚本を同時に手がけることも多い。10年に担当した『モテキ』は11年に映画化され、大ヒット。日本アカデミー賞を5部門制覇し、ほかの映画賞も多数受賞。

(インタビュー・構成/橘川有子 木村尚恵)