ローカルなルールが瞬間的に分かる若者

内田:就職のチャンスは無限にあるという話です。以前、武術家の甲野善紀先生とテレビ出演した帰りに、晩御飯を食べるため、深夜に7人でレストランに入って鳥の唐揚げを注文しました。鳥の唐揚げは1皿3ピースだったので、7人いるから3皿頼んだところ、ウエイターの若い男性が、「無理に取らなくても7個でいいです。厨房に頼んで7個だけ作ってもらいますから」と言った。それを聞いた甲野先生は、その若者に「君はここで働いていて、客から『うちに来ないか』と誘われたことがあるだろう」と尋ねました。若者は「はい。月に一回くらいは言われます。なぜ分かったのですか?」と答え、甲野先生は「うん、わかった。もういい」と(笑)。深夜レストランのウエイターでも、仕事ができる子は一瞬で分かる。だから、最初の就職先で人生が決まるというのは嘘で、どこからでも道は開ける。人と接する場面がある限り、質の高い仕事をしていれば、絶対に見出される。仕事ができる人は、その場のローカルルールが瞬間的に理解できる人だと思います。

原田:確かにその若者は、広告会社の営業マンでも通用しそうですね。むしろ、プロでもそういったことができない営業マンはたくさんいます。今の学生は、マニュアル通りに自己PRで自分がいかに素晴らしい学生生活を送ってきたかを示そうとし過ぎです。一部の天才を除き、学生時代に大した実績なんて作れるわけがないのに。特に日本企業は、他国の企業と比べると、圧倒的に社風を大切にするので、内田先生の言うように、「またこいつと会いたい」「一緒に働きたい」と思わせることに注力した方が、実は就活でも近道なのですがね。

 最後に質問です。先生は10年後はどうされているのでしょうか。

内田:今と一緒です。基本的には山にこもっていますが、人や土地との関わりはあります。武道の世界では、一般に言う老いとは違い、60代、70代でどんどん深くなっていく。武道は80歳までは右肩上がりです。私の先生も、80歳を超えています。あとは、とりあえず暇になりたい。家から出ない生活が送りたいです。

原田:この4カ月で30回も新幹線に乗られたとのことですが、本当に大忙しですね。私もクライアント業に巻き込んでしまっている犯人の1人かもしれません(笑)。本当にすみません。でも、道場の若者たちだけではなく、もっと多くの若者たちに内田イズムを伝承していただきたいと思います。“史上最低の世代”である30代、40代も見捨てず、ぜひしかってくださいね(笑)。

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対談を終えて
内田先生には、前編では「続『下流志向』・その後の若者たち」というテーマで、若者の一部がまっとうになってきている状況、バブル世代以降の過剰な費用対効果発想、競争の無意味さ、後編では「日本企業は若者とどう付き合うべきか?」というテーマで、身体感覚の重要性、リーダー論、若者は甘やかすべきだといった多岐にわたるテーマについてお話しいただきました。この対談を通して、先生が近頃の若者たちのことを、少なくともその上の世代よりも評価していることが最も印象に残りました。先生のおっしゃる通り、エスタブリッシュメントが完全に崩れた今、上の世代よりも長く生きていかなければいけない若者たちの方が切実にそれを感じ、生存本能や直感を活用して、過去にとらわれない、道なき道を進み始めている若者たちが生まれてきているのは事実だと思います。一方で、生存本能を働かせず、愚かな費用対効果発想に陥っている若者たちもいます。しかし、これは何も若者だけの話ではなく、我々大人や企業にも当てはまっていることかもしれません。時代の影響を最も早く、大きく受ける異なる2タイプの若者たちを見ることで、我々も襟を正し、そろそろ新しい幸せの価値観を提示するステージにきているのだと思います。

(構成/和島由佳、森谷純大、橋本大佑、柏木類=博報堂若者生活研究室・現場研究員 写真/稲垣 純也)

著 者

原田 曜平(はらだ ようへい)

 1977年、東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。マーケティング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、現在「博報堂ブランドデザイン若者研究所」リーダー。多摩大学非常勤講師。03年、JAAA懸賞論文・新人部門入選。著書に『近頃の若者はなぜダメなのか?』(光文社新書)、『情報病』(角川書店)、『中国新人類・八○后が日 本経済の救世主になる!』(洋泉社)、『10代のぜんぶ』(ポプラ社)、『黒リッチってなんですか?』(集英社)などがある。なお、博報堂ブランドデザイン若者研究所には、「現場研究員」といわれる高校生・大学生を中心とした若者たちが100名程度在籍。彼らと一緒に若者研究を行い、いろいろな企業と提携し、若者向け商品の広告制作、商品開発、各種マーケティング調査を行っている。「現場研究員」は随時募集中。