若者は身体感覚を取り戻せ

原田:確かに映画『ALWAYS 三丁目の夕日』も、年配の方たちだけでなく、若者たちも観に行って泣いていました。

内田:ネットとか、コンピューターとか、非常に人工的な空間に対して、揺り戻しが起きて、「やっぱりバーチャルはバーチャルでしょう」という感覚が若者の間で広がり始めている。リアルな空間があって、そこで体を使って、ものを作るという、一次産業に対する価値は若者の間で高まっている。農業や漁業に就きたいという人も多い。職人も人気で、若者たちのなりたい職業に挙がる。これは極めて健全です。

原田:遊びの世界でも、ここ数年、学生たちの間で鬼ごっこやドロケイ、缶蹴りが流行っています。戦後みたいですね。

内田:そのような子供の遊びはとても大事。身体感覚が鈍っているから、取り戻していかないといけない。合気道道場も全国的に増えています。身体的な実感は、人間として一番ベーシックなところ。体を動かすことは、楽しいし、やれば必ずうまくなる。この確実感は他では得がたい。うまくなる過程で何回もブレークスルーがある。その瞬間、固定概念が壊れて発見がある。「この関節はこんなふうに使うことができるのだ」というように、突然選択肢が増えるのは大変な快感です。

原田:企業も研修で武道をやらせた方が良いかもしれないですね。

内田:特に合気道は競争的でないからいい。対立したり競争したりすると、たちまち互いに足を引っ張り合う。武道は、基本的に個人の持っている潜在能力をどれだけ高めるかというもので、本来は試合をしない。試合をして道場内で対立関係ができ、「おれはあいつより上だ」などと言い出すと、個人の成長が止まってしまう。それより後輩が入ってきたら「俺よりうまくなってくれ」、先輩には「もっともっとうまくなって引っ張ってくれ」と考えるようにならないといけない。皆がうまくなりたいって思って、誰かが成長すると感動して拍手する。そういう場ができると、全体の能力は上がります。

原田:これは日本企業全体に言えることかもしれません。日本が成熟ステージに入って、市場がなかなか拡大しないから、シェアの取り合いになる。業界を挙げて市場を拡大させようとするのではなく、足の引っ張り合いに終始している。企業内でも、なかなか業績が上がらないから、社内で活躍する人を応援するのではなく、蹴落として自分の社内的プレゼンスのシェアを拡大することに喜びを感じるようになっている。

内田:日本の企業は、成果主義という互い憎み合う物差しを入れてしまった。会社全体で一つになって、どうやって業績を上げるかを考えるべきで、多様な人材が多様な能力を発揮するのが一番バランスが良いのに、互いが互いを認められなくなっている。競争の悪い点は、格付けすること。格付けは、条件が全て同じでないとできないので、皆同じ顔になってしまう。競争がいけないのではなくそれより、全員を均一化することが、はるかに有害です。条件以外の能力があっても査定外だから、査定されなければ、開花させていく動機がなくなる。昔は、仕事はできなくても部内の揉め事を片づけてくれる人など、色々な人がいた。そういう人は数値化できないけれども、その人がいるおかげで全体の成果が上がっていた。