今回は『下流志向』などの著作で知られるベストセラー作家、内田樹先生と近頃の若者について対談をさせていただきました。内田先生は、2011年まで神戸女学院大学で長年教鞭をとられ(現・同校名誉教授)、現在ご自身で武道塾を開かれており、多くの若者と接していらっしゃいます。

内田 樹
うちだ・たつる。1950年東京生まれ。1975年東京大学文学部仏文科卒業。1982年東京都立大学人文科学研究科博士課程中退。東京都立大学人文学部助手、神戸女学院大学文学部総合文化学科助教授、教授を経て、2011年に退職。同年、神戸市に武道と哲学のための学塾凱風館を開設。主著に『ためらいの倫理学』(角川文庫)、『レヴィナスと愛の現象学』、『他者と死者』(文春文庫)『寝ながら学べる構造主義』(文春新書)、『死と身体』(医学書院)、『街場の教育論』(ミシマ社)など。『私家版・ユダヤ文化論』で第六回小林秀雄賞、『日本辺境論』で第三回新書大賞、2011年に第三回伊丹十三賞を受賞。神戸女学院大学名誉教授。昭和大学理事。日本ユダヤ学会理事。合気道兵庫県連盟理事。合気道七段

直感を信じる若者の出現

原田曜平(以下、原田):先生が開かれている道場にはたくさんの若者がいるので、日ごろから多くの若者と接していらっしゃると思います。2005年に『下流志向』を書かれ、その中で若者たちの特徴として、「労働からの逃走」「学びからの逃走」というキーワードを挙げられています。あれから10年近くが経ち、若者たちはどう変化したと感じていらっしゃいますか?

内田 樹(以下、内田):一変したと言えます。完全に健全な方向に是正された若者が増えてきている。端的に言えば、就活にのめり込む若者とやらない若者に、はっきり分かれてきている。10年前は、就活をしないと即ドロップアウトという空気があった。今は、良く勉強し、労働する若者が、就活産業先導型の就活に気持ち悪さを感じ、就活をやらなくなってきています。

原田:そうした現象が起こったのは、この10年の間にどんなことがあったからでしょうか?

内田:エスタブリッシュメント(社会的に確立した制度や体制)に対する不信感が根付いたのではないでしょうか。日本社会に未来がないことが、この10年でかなりはっきりしてきた。日本がこうした状況なのに、先行世代は若者に「こういうふうに生きなさい」といまだにロールモデルを提示し続けている。若者からすれば、「そんなことを言うあんたら、目が泳いでいるよ。浮き足立っているよ」と見えてしまう。目が泳いで、浮足立っている人たちが、あっちへ行け、こっちへ行けと言ったところで、若者たちは信用しない。このように日本の現状が分かる若者と分からない若者に二分されてきている。皆についていかない若者は、彼らの生物としての本能が「ああいうやつらの言うことはあてにならない」と、生き延びるために自分の直感を信じるようになったのでしょう。

原田:世の中からロールモデルがなくなったために、自分の直感を信じるようになった若者が出始めている、ということですね。