妻の友人が営むフランス料理店で定期的に開かれている、ちょっとオシャレな人々が集まるワインの試飲会。そこに出席した鞄工房赤坂商店の赤坂年章氏は、持ち寄られるワインが買ったままの紙袋に無造作に包まれているのを見て、「ワインのためのかばんがあっても良いかも」と閃いた。

 そうした良いワインはきっと休日に買われて、当日は、家から店まで持ち歩くことになる。会社に出社してから参加する人もいるだろう。持ち運ぶバッグに求められるのは、縦長のワインの瓶が自立する安定性の高さと、落としても割れない保護の役割。だがそれだけでなく、せっかくの高級ワインなのだから、バッグとしての素材感や「それなに?」と注目される見た目のインパクトにもこだわった。

COLLINA ROSSA(赤坂商店、実勢価格1万8900円)ブラック×ワイン、ブラック×ホワイト、サンドベージュ×ワイン、チャコールグレイ×アイボリー
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 もともと、デザイナーとして出発した赤坂氏。まずデザインからスタートした。調べてみるとワインを持ちあるくパッケージとして、ウエットスーツなどに使用される素材を利用した簡易的にフィットするカバーなどは市販されていた。しかし作りたいのはあくまでもかばん。本体生地には、落ち着いた平織りで高い耐久性を持つ、アウトドア製品やビジネス バッグに使われる極太のナイロン マグダスという生地を採用。内側は高級感もあり包み込むような柔軟な風合いの、超極細糸にシリコンウオッシュを施したマイクロスエードを使った。

 デザインのアクセントでもあり、ワインが抜けないよう固定するキャップ部分には、使い込むほどに味の出る牛ヌメ革で存在感を持たせた。

 平均的なワインボトルなら、ほぼきっちりとフィットするよう、外側と内側の素材の厚みを考慮して、型紙(パターン)もそれぞれ別に作っている。同じサイズでは縫製すると内側に細かいしわが寄ってしまうのだ。持ち手のカーブやパーツのバランスも機能とデザインの両面から細かく気をつかった。

 中でも一番こだわったのが、底の安定性だ。通常、かばんを縫製する場合、底は内側で縫い合わせてひっくり返し、縫った部分が外に出ないように仕上げる。しかしその方法では安定性がないため、底に固い芯材を入れ、段差ができないよう特殊な縫製方法を考えた。満足いくまで10回以上もサンプル試作を繰り返し、完成したのが本品だ。

極太ナイロンを使っており、ワインを保護する役割も果たす
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 赤坂氏は、工業デザインの学校で学び、ゴルフのキャディバッグやスポーツバッグなどを企画する会社に就職。その後も問屋、縫製メーカー、デザイン会社など経て独立。その間、製品のサンプル作りでは、デザイナーの抱くイメージと、職人の技術や納期、価格面や得意先会社の思うデザインなどさまざまな要因から妥協しなければならないこともあった。最後に在籍していた会社からは、手がけたかばんの在庫を持っていっていいと言われた。ただ「持っていきたいと思える製品がなかった」と赤坂氏。「自分で欲しいと思えるかばんがデザイン出来ていなかった」と振り返る。

 ワインボトルバッグは「自分が使いたいと思ったものを形にした」と赤坂氏。縫製にもこだわり、工房内でハンドメイドで生産しており、自社のホームページだけで販売していた。最近は水筒を入れて持ち歩く人も出てきているという。


(文/波多野 絵理)


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