高松の仏生山温泉というところに取材に行った。ここは「まちぐるみ温泉」というユニークな発想で運営しているところ。1泊2日を過ごして、魅力的な町づくりだと感じ入った。

気取らない風情が魅力的な温泉

 金沢に出張した足で、そのまま高松に向かったため、金沢から京都へ、そこで新幹線に乗り換えて岡山、そこからマリンライナーで高松へ。4時間以上に及ぶ移動で、正直言って身体はへとへと状態だった。もともとは好奇心が強い性格なのだが、高松に到着した時点では、さすがに「今日は取材より休みたい」という気持ちが勝っていた。

 たどりついた温泉は、すっきりしたモダンな建物。受付カウンターにいる男性が、温泉のシステムと宿泊施設への案内を、とても感じ良くしてくれる。何しろ取材で行ったのだから、本来は温泉に浸からなければならないのだが、それより、早く一人になって休みたいという思いが強い。「先に部屋に行きたいのですが」と聞いてみると、「ここから700メートルほどあるので、クルマでお送りします」という答え。一度、部屋で落ち着いたら、わざわざ温泉をのぞく気力がわかないと思い、とにもかくにも温泉に入ることにした。

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 早速、手渡されたのは、布の袋に入っているタオルやブラシ、歯ブラシなどのキット。豪華ではないが、ひとつひとつが、さりげなく、しかし使い心地を考えて選ばれたものだとわかる。ロビーのような広間では、家族づれや女性一人が、思い思いにかき氷を食べていたり、書籍を読んでいたりする。空間はモダンな設えなのだが、漂っている空気が柔らかくて気取っていない。

 脱衣所がまた、いい感じだった。簡素なロッカーが並んでいて、手前にベンチがあるのだが、圧巻なのは、目の前に浴場が開けていること。中空が拭きぬけで屋外になっているので、夜空が丸見えの空間に、いくつかの湯船と洗い場が広がっている。明る過ぎず暗過ぎない照明の加減もあって、屋外と屋内の境目のなさが際立っている。こうなってくると、先ほどまでの疲れは何のその。一刻も早く湯に浸かって空を眺めたくなるから、人間はわがままなものだ。

 浴場は、思いのほか、多くの人でにぎわっている。近所の人も少なくはないのだろう。身体にタオルをあてて腰掛け、長話にふけっている人。子連れでわいわい楽しんでいるグループ――うるささや煩わしさに陥っていないのは、解放的で敷居が高くない空間のなせる技だと感じ入った。後から、運営主である岡昇平さんに聞いたところ、「温泉の中で初対面の人同士がおしゃべりしたりということもある」そうだが、人が胸襟を開く空気が何気なく漂っている。だからなのだと腑に落ちた。

広々とした縁側を備えた気持ちのいい宿
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