現在のコンテンツビジネスのジレンマとは

 「テルマエ・ロマエ」、「アーティスト」と立て続けに2本、良い映画を観た。ゴールデンウィーク最大のヒット映画とアカデミー賞作品賞受賞映画であるから、その中身は鑑賞に足るものであることは間違いない。そしてもうひとつ、これらの作品には面白い共通点がある。  

 「企画を実現するのがビジネス的に難しいだろうなあ」と、ビジネスの専門家である私の目には、その困難さが手に取るようにわかる。  

 その話をするためにも、まずは基礎知識として、この2本の映画がどのような作品なのかごく簡単に解説しよう。

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 テルマエ・ロマエは、月刊コミックビームに連載され、累計500万部のコミックスが販売されたヤマザキマリ著の人気漫画の映画化作品だ。古代ローマ時代の大浴場(テルマエ)を設計するテルマエ技師ルシウスが現代日本の銭湯にタイムスリップし、そこで目にした富士山の絵(ベスビオス火山の絵と勘違いするが)やフルーツ牛乳などに感動し、そのアイデアを古代ローマに持ち帰って成功するというコメディ作品である。  

 コメディにもかかわらず、イタリアの映画村とでもいうべきチネチッタに作られた巨大な古代ローマのセットで撮影された映像は圧巻である。  

 かたや、アーティストはフランスで制作された新作の白黒サイレント映画である。サイレント映画といっても最近の若い方はご覧になったことがないかもしれない。1920年代(日本で言えば大正時代)までの映画では、役者のセリフは字幕で読むものだった。チャーリー・チャップリンやバスター・キートンといった喜劇役者が活躍したのはこの時代である。

 その後、音声トラックを収録したトーキー映画が出現して、サイレント映画にとって代わる。アーティストはこのサイレント映画からトーキー映画に移行する時代のハリウッドを舞台にしたロマンティックコメディである。

 演出としてわざとサイレント映画の形態をとった作品で、アカデミー賞の作品賞としては第1回の受賞作以来83年ぶりのサイレント映画の受賞となった。

 私はこれまで、現代社会は大埋没の時代だと語ってきた。ネット上での情報量が爆発的に増えた結果、普通の作品では簡単に埋没してしまう。ヒットに持っていくためにはがつんと目立つ何かが必要になる。  

 それを実証するように、近年ヒットした映画やテレビ作品には、共通して強烈な個性がある。最近のテレビドラマの高視聴率作品でいえば、犬がしゃべる「マルモのおきて」、主人公が強烈な「家政婦のミタ」、サバン症候群の青年が困難な事件の解決の糸口を見つける「ATARU」など、どのドラマも曲者ぞろいである。  

 後付けで解説すれば、ヒットには強烈な個性が必要だということになるのだが、企画会議の段階では強烈すぎる企画を通すのは難しいし、斬新すぎる企画は、失敗を恐れて避けられる。  

 視聴率40%超えを達成し、強烈な印象を残した「家政婦のミタ」の場合で考えてみよう。

 企画の段階では、「市原悦子さんでヒットした『家政婦は見た!』シリーズを、今度は松嶋菜々子さんでやってみます。松嶋さんは『家政婦は見た!』の大ファンで、本作品はそのオマージュ作品として力を入れたいと思います」―。

 このような言葉で企画を伝えるのが関係者には一番わかりやすい。その後、出来上がった作品のように、ロボットのように感情を表さない家政婦が「承知しました」のひとことで母親の衣類に灯油をかけて燃やしたり、二男のクラスメートの首を絞めたりといった展開になるが、それらはあくまで演出であって、企画段階では、スポンサーが不安に感じるような要素は伝えない方がいいのである。

 しかし、なぜヒットしたのかということになると、企画書に書けたであろう内容よりも、灯油をかけて衣類を燃やす初回のシーンのインパクトがあったことの方が大きいのである。つまり、現在のコンテンツビジネスのジレンマとは、斬新でなければヒットできないということと、斬新すぎると企画会議が通らないというところにある。