中国を中心に建築の域を超えた活躍を見せる迫慶一郎氏。対談の前編では中国で成功するために必要な考え方やデザインという仕事に関する氏の思想などを聞いた。

原田曜平(以下、原田): 中国で好まれるデザインの傾向は何かありますか?

迫慶一郎
さこけいいちろう。1970年、福岡県生まれ。東京工業大学大学院修了後、96年、山本理顕設計工場に入社。2004年、SAKO建築設計工社設立、04~05年、米国コロンビア大学客員研究員、文化庁派遣芸術家在外研修員。北京を拠点に現在までに80を超えるプロジェクトを、中国、日本、韓国、モンゴル、スペインで手掛ける。建築設計とインテリアデザインを中心としながらも、グラフィックや家具、都市計画マスタープランまで、その仕事範囲も多岐にわたる

迫慶一郎(以下、迫): 中国の価値観は多様なので、ひとことで言い表わすのは難しいんですが、僕に依頼してくれる施主には共通点があり、ます。それは「明確なオリジナリティ」を求めていることです。それまで500店舗、あるいは2000店舗も出店してきたような企業が、さらに上のステージへ進みたいと考えたときに、空間デザインはもちろんブランディングまで含めて迫に頼むと言われることも多いですね。

原田: それはやりがいがありますねえ。

迫: 確かにそうなんですが、期待感も大きいので、生半可なデザインじゃ納得してくれないんです。でも僕の方もエッジの効いたデザインをやりたいので、相乗効果が出ていると思います。

原田: 「明確なオリジナリティ」が生んだ典型的な例を紹介してください。

迫: ひとつめは「杭州ロマンチシズム2」というプロジェクトです。

「杭州ロマンチシズム2」の外観。お客を中に引き込むような有機的な形態。
「ネット」は内部空間でハンガーやイスや書棚など、さまざまなものに変化する。手仕事でしか成し得ない複雑な形態。

原田: これはどういった店なんでしょうか。

迫: 「杭州ロマンチシズム2」という若い女性向けのブティックです。2007年2月に竣工し、国内外で様々な賞をもらいました。「ユーロショップデザインアワード」では「One of best three worldwide」という賞もいただいきました。これはその年のベスト3を選ぶもので、他の2つが「ナイキタウン」(ロンドン)と「アメリカンガール」(シカゴ)でした。どちらも大資本が手掛けたプロジェクトです。

 これは中国で500店舗を展開しているとはいえ、世界的に見れば超ローカルです。それでも、そのような賞に食い込んでいけるというのは、デザインの醍醐味だなあ、と思います。デザインって資本や規模や制度などの束縛から解き放たれる可能性を常に持っていると思うんです。たとえるなら無差別級の戦いに参加してる感じでしょうか。