シャープが、「イルカ」の生態を応用した縦型洗濯機を発売している。

 学会などで発表されているイルカの高速遊泳の原理を、洗濯槽底面に設置しているパルセータに応用。これによって、タテ方向に水流を起こし、少ない水でももみ洗い効果を加えることに成功した。その結果、ガンコな汚れをしっかり落とせるようになったのだ。

 では、イルカの生態と洗濯機のパルセータがなぜ結びついたのだろうか。

 イルカには不思議な生態がある。なかでも、生物学においては「グレイのパラドックス」と呼ばれる、動物学者のジェームズ・グレイ氏が指摘したイルカの高速遊泳時におけるパラドックス(定説に逆らうもの)がある。

 イルカは高速遊泳時には時速50kmにも達するというが、生物学上、その速度を出すのに必要とされる筋肉量の7分の1しかない。これはいまだに解明されていないイルカの「謎」であり、筋肉量以上の高速遊泳が可能な「仮説」として、いくつかの研究成果が発表されている。

 その研究成果の1つが、イルカが高速遊泳する際には、イルカの腹部に、流れに対して垂直方向に複数のしわができるという点だった。

 一般論として、流れと垂直にしわを作れば抵抗を生むと考えられそうなものだが、しわができる角度やしわの深さなどによっては、高速遊泳時にプラスに働くというわけだ。

 一時、水泳競技でフルボディータイプの水着が人気となったのを覚えている人もいるだろう。これもイルカの生態を水着に取り入れたものと言われている。

 シャープでは、新開発のパルセータを「ドルフィンパル」と呼び、この表面に、「ドルフィンスキャンパルセータ」として、イルカの表皮のしわを再現した突起を、水の摩擦抵抗がなくなるよう十字方向に配置。さらに四つ葉のクローバー形状でも突起を作った。これにより、モーターを変えずに強い水流を作り出したのだ。

 さらに、イルカの尾ビレの形状が三日月翼となっていることを、パルセータ裏面の羽根の部分に取り入れた。

 パルセータの裏側には、イルカの尾びれのような三日月翼を4方向に配置。裏側に入り込んだ水をこれによって掻き出せるようにした。

 イルカの尾ビレの形状を採用したことによって、「ドルフィンクキック水流」と呼ぶ、より強い水流が実現され、抵抗の少ないドルフィンスキャンパルセータとの組み合わせによって、水平方向の水流だけでなく、上下運動と回転運動を組み合わせた複雑な強い水流が生まれた。

 シャープによると、洗浄力は15%上昇、洗浄ムラは30%低減。さらに、洗浄時間で18%減、消費電力でも18%減少。そして、洗濯に使用する水の量を15%削減したり、洗剤量を50%低減しても、同じ洗浄力を達成したという。実験では、洗濯時において、生地の傷みを低減する効果も出たという。

 モーターを大型化することなく、水流を強くできれば省エネにも直結する。デザインの変更は、少ない投資コストで改良できるので、作り手には大きなメリットがあるといえよう。もちろんそれは消費者へのメリットとしても還元されることになる。

イルカの生態を採用したドルフィンパル。十字方向と四つ葉のクローバーのような形で突起をつくる
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従来のパルセータ。水の流れに沿った形で突起が作られていた
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裏面。4方向に伸びる形でイルカの尾ビレを模倣したことで、ドルフィンクキック水流を実現する
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こちらは従来のパルセータの裏面。底面に入った水を水流を作りながら掻き出すことはできなかった
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