「繰り返し」によって等身大のものに近付く

──自己否定……ですか?

西沢:というのは、いま自分でクルマを運転して移動しているんですけれど、それは運転が楽しいからなんですね。でも僕が選んだクルマは運転しやすいかどうかというと、実はしやすくはないんです。運転のしやすさを目指してクルマのことを考え始めると、どうしてもオートマがいいとか、運転の負荷がない、面倒くさくないものがいい、ということになる。最終的には、誰かに運転してもらって、自分は後部座席に座って移動するのがいちばんラクだという結論になってしまう。ラクかどうかで運転を考えていくと、運転という機能を否定する、誰かに明け渡すような結論になりかねない気がするんです。

 しかし、運転することを楽しさ、ジョイとして考えると、運転を否定する方向にはなっていかない。だから「機能、使う、愛する」ということは、利便性の問題ではなくて、快楽の問題、生きる活力の問題であるはずなんです。

 料理でも、もしもそれが単なる食べるための準備や手段でしかなかったらどうか。単なる労苦で、誰かにやってほしい類のことだったらどうか。そうだとしたら、これほど料理好きの人は出てこないはずですし、こんなに世界各国でいろんな料理文化が発展してこないはずだと思うんです。料理すること自体がある種の快楽、楽しみになっているのに違いないと。

 それと同じように、住むということも快楽であって、仕方なく住むのではない。住みたくて住むのです。そういうことは、設計する側にとっても重要な問題だと思っています。

──便利か不便かについては、過去のインタビューで西沢さんが、「東京はコンビニみたいだ」とお話しされているのを読んだ記憶があります。便利さばかりで街や建物ができていったら、つまらないものになるということですか?

西沢:そのときに「コンビニみたいだ」って言ったのは、「いま的」なことだけでできている、という感じを表現したものですね。

 いま必要なものだけで都市をつくると、それはいましか使えないものになると思うんです。機能というものは変わっていくもので、今日使えるものが10年後には使えないということはよく起こることです。だから、いま必要な機能だけを求めて街をつくると、大変なことになる。都市はそういうものではなくて、数百年前にも使われていて、未来にも使われるものですから。

 そのときに、都市にはいろんな時代のいろんな使い方、いろんな痕跡が残っていく。そういう時間的な多様性を持つものが都市であって、それはやっぱりかけがえのないことなんです。

──「飽きる、飽きない」というお話をもありましたが、使い続けることについては、手塚貴晴さん、由比さんにお聞きしたときも、構造物として長くもつかどうかとは別に、みんなに愛着を持ってもらい、長く使ってもらうことが大切だとおっしゃっていました。

西沢:時代が変わっても人が変わっても住まわれ続ける、使われ続けるということは、すごいことだと思います。でも、意外にそれは世界中で起こっているんです。

 先ほどから例に挙げているローマ時代の建築なども、迫力があって本当にすばらしいものですから、人々はそれを大切に使いたがる、愛したがるわけです。目の前にすれば、おのずとイメージがわいてくる。人間が持っている空間的な想像力や、使うことに対するエネルギーを喚起するんです。僕は、現代建築にだってそれはできるんじゃないかと思っています。

 それから、やっぱり「繰り返し使うこと」自体が大きな意味を持ちますよね。自分の家の前の通りに、まさにそれを感じるんですけれど、使っているうちに受容の仕方が深くなっていく。徐々に身体化していくというのかな。新しい街に引っ越したばかりのときは、街も目の前の通りもそんなにたいしたものには見えませんし、特別なものではない。あるいは、つくられたばかりのものは多少よそよそしいというか、新品っぽいというか、違和感がありますよね。でも、繰り返しそれを使っていくうちに徐々に自分の持ち物のように感じたり、繰り返しコミュニティに接するうちに所属感を持ったりする。親しみの持てる愛すべき存在、等身大のものになっていくのです。

 その意味で繰り返し使うということは重要だと思います。特別な関係を築くことになるんですよ。

金沢21世紀美術館(SANAA/2004年完成)。美術館建築ではあまりない例として、建物を利用する学芸員と維持管理を担当する市の職員、それに設計者が基本設計段階から共同作業を行って完成させているのが特徴。また、順路に縛られない「利用者の能動性」を引き出すプランになっている(写真:吉田 誠)
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金沢21世紀美術館。市の中心部に位置し、無料で入場できる「交流ゾーン」なども備える。公園のような使い方や通り抜けを含む日常的な利用者が多いことでも知られる(写真:吉田 誠)
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