「使う」ことは「愛する」ことに結び付いている

 建築家・西沢立衛(にしざわ りゅうえ)氏に対するインタビュー「有機的カーブが未来を映す ―西沢立衛氏が語る“次の建築(前編)”」では、2011年10月に開館した「軽井沢千住博美術館」の設計を振り返ってもらい、西沢氏による「いままでにない美術館」への挑戦、「自由なカーブを持つ建築」への思いを中心に紹介した。

 建物全体を大地に沿わせるように設計している千住博美術館では、床、壁、天井(屋根)がそれぞれ3次元の自由な曲線(曲面)を描き、自然環境と融合する壮大なスケールと、リビングルームのような居心地を感じさせる身近なスケールとが共存している。

 それが当たり前の場所のように実現したのは、美術館の総合ディレクションを担い、西沢氏を「世界で一番革命的な建築家」と評する千住 博氏(日本画家)と、設計者であるその西沢氏自身が強い意志を持って協働したことがまず一つ。同時に、建築を訪れる“使い手”と一緒に「未来を夢見ること」を共有しようという姿勢があったからだろう。2人の話を聞くことができて、そう納得した。

 後編では、西沢氏のなかにある、人が建築やその場所を「使う」ということに対する思いの深さを探る。

 建築は一方的な設計によって終わるものではなく、「使う」というプロセスがなければ成り立たない。そこまでは分かっていたものの、「使い手とのキャッチボール」が続いているのだと聞き、普段そんなことは意識していなかった自分に気付いた。自分が住む街、よく訪れる建物、なじみの店、思い出の場所で、実はそうした「創造的」なことに関わることができているのかもしれない。だから日々の自分に重ねながら、西沢氏の言葉に触れてもらえるとうれしい。

軽井沢千住博美術館。冬季の休館を終えて3月1日から再オープンしている。当初とは展示作品の一部を入れ替えて、福島県三春町の夜のおぼろ桜を描いた「夜桜満開」などの特別展示も実施中。カラーリーフガーデンの色づき情報などを含めて公式サイトの「新着情報」(http://www.kshm-event-shop.info/)をご参考に(写真:阿野太一)
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──このコラムではこれまでインタビューの最後に、「愛される場所って、どんなものだと思いますか?」という質問をしてきました。今回、西沢さんには、コラムのテーマについて一緒に考えていただくつもりでお邪魔しています。そちらの話題に移ってもよろしいですか?

西沢立衛建築設計事務所代表 西沢立衛氏(以下、西沢):はい。いまおっしゃった「愛される」という言葉は、ある意味では僕にとっては「使われる」と言い直したほうが、考えやすいかなぁと思います。使うということと、愛するということが建築ではちょっとつながっている気がするんです。あるいは、僕がそれをつなげたいと思っているのかもしれません。

 人間が建築を愛する、使うということに関して僕が一つ思うのは、先ほど(前編)の都市の話でいえば、例えばローマの都市はローマ時代につくられましたけれど、それはいまも使われ続けていますよね。もとはオフィスとしてローマ時代に建てられたものがいまではホテルになっていたり、かつて宮殿だったものが美術館になっていたり、使い方はさまざまです。でも、使い方や機能は変わっても、時代を超えて人々は使い続けているわけです。

 そういうものに接して思うのは、モダニズム(近代主義=合理性を重んじる20世紀初頭からの潮流)の時代以降、人間の生活や機能に合わせて建築をつくるような考え方が普通になりましたけれど、もともとは逆だったということです。街や建築に合わせて人は住んできたんです。ローマの都市にしても、日本の民家にしても、自分たちが生まれたときにはすでに、もうずっと前につくられた都市や建築があって、それに我々が合わせて住み、生きてきた。

 世界の都市や古い建物を見てきたなかで、僕もいろんな感動を経験しています。もともとは別の機能のためにつくられたんだけれど、現代の人々が全く違う使い方をしているシーンなども、いくつも見てきました。「愛する」とか「使う」とかでいえば、それは大変な営みだなと。例えば、ルーヴル美術館ももともとは住宅ですけれど、それがいま世界一の美術館になって、世界中の人々が押し掛けている。よく考えてみれば驚くような話ですよね。古い倉庫や工場を改造して強引に住んだり、お城を違う用途で使ったり──人間による「使い方」のすごさ、活力、そういうものは本当に感動を呼ぶものなんです。

 建築をどう使うか──この「使う」という言葉にはちょっと、消費的な語感があるかもしれません。だから、これを「愛する」という言い方にすると、生産的なことでもあるように感じますし、いいですよね。魅力的な場所に出合うと、人々はそれを好きになって、愛して、使いたいと思うわけです。僕がつくる建築も、そのような愛され方、使われ方をされるといいな、多くの人に共感されるものになるといいなと思っています。

インタビュー中で触れているルーヴル美術館の別館「ルーヴル・ランス」の設計を、西沢立衛氏と妹島和世氏が共同するSANAAが担当(上は完成予想図)。2012年12月の開館を予定している(画像:Cyrille Thomas (C)SANAA/Imrey Culbert/Catherine Mosbach)
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