みんなが使い続けるものだから「分かりやすく」

――私自身は、エントランスを入ったところからの「眺め」が一番印象に残っています。写真で見るよりもずっと高低差を感じる場所で、ちょっとした丘の上に立ったような。これから回る全体を見渡せる安心感、分かりやすさもありました。

西沢:そうなんですよね。建築ってみんながずっと使ってきたものだし、これからも使っていくものだから、ある意味での分かりやすさはすごく重要なことです。建築のどこが面白いとか、新しいとか、可能性があるとか、必要だとか、そういうことを主張するためには、感覚的に分かりやすくストレートに言える必要がある。それがうまく伝われば、建築や空間というのは、すごく共感できる分野じゃないかと思うんです。

 さっきのような僕がカーブについて考えていることは言葉にしづらく、また、あまりに専門的というか技術的なことなので、分かりやすくない面もあるのかもしれません。でも、できてみると意外に身体的、感覚的に「なるほど」と思ってもらえるのではないかと期待しているんです。その意味でも、身体や感覚に伝わる分かりやすさっていうのは重要なことだと思っています。

――「いい意味で分かりやすい普通さがある」と私は感じたのですが、もっといろんな人にどう感じたかを聞いてみたい場所です。あるようでなかった、こうした全体に自由なカーブを持つワンルームのイメージは、早くから固まっていたのですか?

西沢:ここにたどり着くまでに、かなりのバリエーションを考えています。全部掘って地下から立ち上げるとか、屋根の形も相当いろんなことを試しています。絵画をどのように空間に設置するかも、かなり試行錯誤しました。

 それから最初は屋根も床と同じカーブにしようと考えていたんですけれど、屋根勾配としては緩すぎると感じたので、結局は思い切って床とは違う急なカーブにしました。このときに、軒が高いと見た目のボリュームが軽井沢の景観に合わない。もう一つは差し込む光をカットする意図もあって軒高を抑えています。一方、展示空間の上では高くなったり低くなったり、いろんなサイズの絵画作品に合わせた空間を連続的につくり出しています。

――中庭などからの自然光の入り方はシミュレーションしているのですか?

西沢:光の扱いは確かに大きな問題でした。絵画に対する影響を小さくするために、それから鑑賞環境を整えるために、いわゆる日影や照度のシミュレーションを行っています。施設としての全体の照度もあるし、鑑賞するための壁面照度もあるし、それらとの関係で自然光をどう取り入れるかについては慎重に検討しました。

 床のカーブの具合も適当にやっているように思われてしまうかもしれませんけれど、実はいろいろと考えています(笑)。

――適当とは思っていません(笑)。

西沢:例えば、車椅子に乗る人あるいは介助する人にとっては、等高線に対して車輪が直交するような斜路じゃないと引きずられる感じになって、大変な場所になってしまう。決まった巡回路はないといっても、そういう車椅子の人のための動線はきちんと分かるように確保しているんです。その動線がおのおのの展示壁の間を巡回できるものじゃないとならないので、実はこれは床の3次元曲面を決める際の非常に大きな条件になっています。もちろん、床と屋根のカーブを優先するあまり、絵画を設置する展示壁を変に歪めるわけにはいきません。それらの間のバランスを調整しながら、全体のカーブは成り立っているんです。

日影のシミュレーションを行いながら展示壁と中庭の関係などを検討したうえで、光の降り注ぐ展示空間を実現している。またコンクリートを打つ際の目地と車椅子動線を一致させ、床面で判別できるようにしている(写真:阿野太一)
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全面ガラス張りの外周側にはアルミコーティングされたカーテン生地を巡らせている。遮熱・遮光の機能があると同時に、外の風景をほのかに感じ取ることのできる素材として採用している。中庭のガラス面に同じカーテンを設置する案もあった(写真:阿野太一)
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