「新しさに向かおうという姿勢」に共感

――まず、千住さん(米国ニューヨーク在住)と西沢さんがコラボレーションすることになったきっかけを教えてください。

西沢立衛建築設計事務所代表、西沢立衛氏(以下、西沢):直島の「スタンダード2」展(香川県、2006年から)で、ご一緒させていただいたのが一番初めのきっかけです。オープニングのとき、出展作家がバスで一緒に回る機会がありました。そこでちょうど千住さんと乗り合わせたんですね。千住さんのことはよく存じ上げていたんですけれど、お会いするのは初めてだったのでご挨拶したら、その場で「一緒に美術館をつくりませんか?」って言われたんです。千住さんの決断の速さが印象的でしたね。

 そのときは海の駅「なおしま」(SANAA/2006年完成)も回って、「こんな感じの、壁のないぶっ飛んだものをつくってください!」とおっしゃられたのをよく覚えています。直島ではそれで終わったんですけれど、その後しばらくして千住さんから電話をいただいて、ぜひやりましょうと。それで敷地を見学に行き、財団(教育・文化事業を広く手掛ける公益財団法人 国際文化カレッジ)の方々ともお会いしました。

――「ぶっ飛んだもの」というリクエストは、ある意味で「なんでもあり」とも解釈できそうですけれど……。

西沢:「いままでになかったもの」「なるべく自然と混ざり合うような、そんな感じがいい」とおっしゃっていましたね。入り口としてはそういう言葉だったんですけれど、千住さんは常に僕(西沢氏)がやりたいことをやるべきだと勇気付けてくださいました。

 千住さんは新しい挑戦に前向きで、お会いするたびにいろんなアイデアが出てきて、毎回驚かされました(笑)。「新しさに向かおう」という千住さんの姿勢は、本当にすばらしいと思いましたね。

――事業主である財団からの要望はどんなものでしたか?

西沢:やはり「千住さんの世界をつくる」ということが第一に重要なことでした。僕としても、あくまで千住さんの絵画や作品世界が中心にあって、千住さんの世界観を体験できるということが大きなポイントでした。

 個人美術館といっても、作家ご本人の意見が反映されていない美術館も多いと思うんです。このプロジェクトでは千住さんが企画から完成まで一貫して総合的なディレクションを担う立場で関わっています。千住さんの作品世界を中心にしつつ、空間全体も総合ディレクターである千住さんの世界観を反映した、ある意味“作品”でもあるわけですよね。だからこそ、こういうプロジェクトに建築設計者として抜てきしていただけたことは光栄ですし、感謝しています。

 施設の内容としては、最初は美術館機能だけではなく、研修所として使いたいという要望もありました。当初、財団の方がおっしゃっていたのは、自然もあってカフェもあって、定期的な研修に使い、ときにはレクチャーも開きたいという、多様な使い方でした。千住さんの作品がそこにあり、それを中心としていろんな使い方ができるというプログラム(機能の配置)が求められていたんです。

 そのほかでは立地との関係ですね。やはり、軽井沢に建てる以上は、軽井沢の環境や自然を感じることができるものにしたいと。設計の途中段階で、カラーリーフのランドスケープもつくりたいというお話がありました。いずれにしても、建物と周辺環境を別にして考えるのではなくて、両者が融合したものがいい、ということは一貫していたと思います。

 そうした複合的なものから次第に、カフェ(別棟として建設)が外に出たりして、より美術館的な性格が強いものになっていったんです。それでも僕らはいまでも、ちょっとした研修など、多目的な使い方にも対応できると思っています。

 建築の面で細かいことを言えば、軽井沢町の景観ガイドラインに沿って屋根に勾配(傾斜)を付けなくてはならないとか、軒を出さなければならないとかは設計上、無視できない大きな要件になりました。

敷地がもともと持つ形や傾斜に合わせて建物を計画し、館内には4つの光庭を配置。森の中を散策する感覚で絵画を鑑賞できる空間を生み出している(写真:阿野太一)
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屋根の形も自由曲面によってデザインし、なだらかに傾斜する敷地と周囲の自然になじませている。町の景観ガイドラインに従い、屋根に勾配を付けることと軒を出すことが前提条件だった(写真:阿野太一)
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