カーナビ業界が生き残るための方法とは?

 『イノベーションのジレンマ』では、この後に起こることをこう予言している。  

 「性能の劣った、しかし価格の安い新サービスは、最初は市場のローエンドの顧客層のみに受け入れられる」―。

 NAVITIMEで言えば、カーナビを購入するのを節約する消費者や、自分では車を所有していないがカーナビがついていない職場の営業車を使わなければならないような営業マンが、カーナビの代わりとして購入するような使い方から利用が広まるということだ。

 そして、時間が経過する中、徐々に性能が向上していく。アプリとしての性能が向上したり、スマホ自体のGPSの性能が向上したりして、それまで「ほぼカーナビ」だったものが、「カーナビと遜色ない」製品へと性能アップしていく。銀塩フィルムとデジカメの戦いで言えば、1995年ぐらいには競争相手にならなかったデジカメが、2000年頃には銀塩フィルムの脅威になりはじめた。それと同じような歴史がこの後、繰り返されることになる。

 従来商品は、破壊的イノベーションから逃れるために、上位市場に集中するようになる。カーナビで言えば、AR(拡張現実)を取り入れた高性能な“立体地図表示”といったハイスペックの技術に活路を見出そうとするのである。しかしそれにも限界が来て、最後には市場から消えていく。ちょうど銀塩フィルムの世界でイーストマン・コダックが経験したような終焉を迎えるのだ。

 一方で、『イノベーションのジレンマ』では、破壊的イノベーションへの対抗策も示されている。もっともそれほど簡単な対抗策があるわけではないが、1つの有効手段は破壊的製品が育つ前につぶしてしまうことである。

 具体的に言えば、カーナビがNAVITIMEよりも十分性能が良いうちに、カーナビの価格をNAVITIMEと同等以下にしてしまえばよいのである。

 実は国内カーナビ市場には、これと同じ効果を持つ別の黒船が出現しており、それがまた別の意味で、カーナビ各社の脅威となっている。その黒船とは、米国カーナビ市場のトップブランドであるGARMINの日本上陸である。

 GARMINの日本版カーナビは、当初コストコや一部の家電量販店で売られ始めていたが、最新モデルの「nuvi2465」の場合、ビックカメラをはじめ、普通に量販店で手に入るようになってきた。価格はカカクコムの最安値で1万4000円台。国産のカーナビに比べれば格段に安く、奇しくもNAVITIMEの5年分の利用料と同レベルの金額だ。

 私は国内ではトヨタ純正カーナビのユーザーなのだが、米国出張時はGARMINのユーザーである。米国版の商品をベースに使用感をレポートさせていただく。

 米国版のGARMIN製品は、通常の量販店で普通に手に入る。私が購入した「nuvi1390」はウォルマートで129ドル(9900円程度)であり、これが米国でのカーナビの価格相場である。

 日本製のカーナビも配線不要の商品が主流になってきたが、GARMINの場合も、購入して箱から出しシガーソケットから電源を取ってダッシュボードに置けば、その場ですぐに使えてしまう。

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 もっときちんと使おうとしたら、吸盤を使って車の前面のどこかに固定すればいいのだが、私の場合、米国出張時はレンタカーで使うので、いちいち固定はせず、車の脇に置きっぱなしにした状態で使っている。  

 これでとにかく電源さえ入れてしまえば、数秒で起動して現在地を把握してくれる。そして、行先の住所を入力すれば、最適ルートを検索し、行先を地図と音声で教えてくれるのだ。レーンのどちら側を走行すれば良いかとか、左折・右折のタイミングとか、日本のカーナビとまったく変わらない高性能である。しかも、日本製とは違って、地図は毎年1回、無料で最新のものをダウンロードしてくれる。要するに、米国市場の場合、高性能のカーナビが、最初から1万円程度で市場に存在しているのである。

 日本のカーナビ各社は今、目の前にある破壊的イノベーションの危機から逃れることができるのだろうか。

 かつて、ミニコンピューター各社がパソコンの脅威から逃れるべく、高性能コンピューター市場にフォーカスし衰退していったような歴史、銀塩フィルムメーカーが、高性能フィルムに活路を見出そうとして消えていった歴史を再びたどることになるのか、それともGARMINに追随することで、破壊的イノベーターが育つ前に自ら市場を破壊的に革新して生き残ることができるのか。カーナビ業界にとっては、これからの5年間が正念場になる。

著 者

鈴木 貴博(すずき・たかひろ)

 百年コンサルティング代表取締役。米国公認会計士。東京大学工学部物理工学科卒。1986年、ボストンコンサルティング入社。2003年に独立し、百年コンサルティングを創業。主な著書に『戦略思考トレーニング』(日本経済新聞出版社)、『NARUTOはなぜ中忍になれないのか』『「ワンピース世代」の反乱、「ガンダム世代」の憂鬱』(以上、朝日新聞出版)などがある。