「製品としてあまり評判が高くないこと」が持つ破壊力

 2012年初時点でのカーナビ業界の製品状況はどうなっているのだろうか。カカクコムで調べると、売れ筋ランキング上位のアイテムは次のような順位になっている。  

 ・第1位:パイオニア 楽ナビ Lite AVIC-MRZ09 最安値9.0万円
 ・第2位:パイオニア サイバーナビ AVIC-ZH07 最安値12.3万円
 ・第3位:パナソニック GORILLA CN-SP710VL 最安値5.3万円
 (いずれも2012年1月16日時点)

 価格レンジで言えば、安いものは5万円台からで、上位機種は10万円を超えるというのが、従来型のカーナビ製品の価格帯である。

 カーナビのより一般的な購入経路は、自動車メーカーの純正オプションやディーラーオプションとしての購入だ。これらは新車購入時の値引き条件が加味されるので、単純な価格として比較できない部分があるが、オーディオ機能や外部モニター機能込みで、10万~20万円台の価値がある商品が主流である。

 このように、従来型のカーナビ市場ではナビを購入し、場合によっては取り付け工事をした上で、安価なもので5万円から高性能なもので20万円台の製品が市場を構成しているのである。

 これに対して、カーナビに近いサービスを提供するスマホアプリが登場している。代表的なものはよく街中でも宣伝を見かける「NAVITIME(ナビタイム)」である。

 NAVITIMEの場合、「ほとんどカーナビ」という宣伝文句の通り、道順案内だけではなく、渋滞情報や最適ルート検索、オービス情報など通常のカーナビが搭載する機能は、ほぼサービスとして搭載している。それでいて価格は、1年間の利用料として3000円である。

 これがiPhoneアプリだと思うと年額3000円は高いように思える。しかし、カーナビを購入し、たとえば5年間その車に乗ることを考えれば、5年分1万5000円でカーナビを購入するのと同じ料金である。だから、「カーナビを選ぶか、NAVITIMEを選ぶか」という観点で比較すれば、NAVITIMEは、価格面で破壊的に格安な商品なのである。

 では、NAVITIMEはカーナビを完全に代替するサービスなのかというと、クチコミの評判を見た限りそうでもない。たとえば、Android MarketのユーザーレビューではNAVITIMEの平均評価は3.5である。これがどれくらいのレベルかというと、「悪くはないが、決して評判は高くない」である。有料アプリの評価上位の製品と比べると、価格1500円のATOKの平均評価は4.6であり、オフィスドキュメントをスマホで使うためのDocumentsToGo(価格1199円)の評価が4.3であるのと比較すると、その傾向はなんとなく読者のみなさんにも把握できるのではないだろうか。

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 なぜこの評価になるかというと、やはりユーザーは、「完成されたカーナビ」という商品と比較して性能を評価してしまうからである。たとえば、「GPSの感度が悪くて、起動してから現在地を正しく判断するまでの時間がかかりすぎる」とか、「ナビ中にスマホが勝手にスリープ状態になってしまい、途中で案内がされなくなる」といった、「まあ、そういったことも起きるだろうな」という点を、ユーザーは不満と感じているようだ。

 クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』で、この「製品としてあまり評判が高くない」という特徴が、カーナビ業界各社の警戒心をゆるめてしまうことを指摘している。その結果、破壊的イノベーション商品が上位市場の製品からの攻撃でつぶされることなく、ゆっくりと成長できるようになる。

 つまり、NAVITIMEのスマホアプリの評判が現時点でそれほどよくないことは、実はNAVITIMEの成長にとっては時間稼ぎになり、カーナビ各社にとっては、将来的に都合が悪い事態を引き起こすと、この経営理論は言っているのだ。