ある人気少女マンガに登場するヒロインの彼氏(のちに二人は結婚)が、メルセデス・ベンツの四駆に乗っていた。同年代で知らない人はいないくらい誰もが読んでいたマンガだったし、クルマの登場シーンも多かったからか、黒塗りのベンツはなぜか記憶に強く残っている。そんなことが影響してか、筆者はメルセデス・ベンツに「自分には関係ない」というイメージは持っていなかった。けれど、若い人には「手の届かないクルマ」と思われている。購入者の平均年齢は50歳を超えるという。

 メルセデス・ベンツ日本(欧州自動車大手、独ダイムラーの日本法人)は、これまでの顧客がシニア層に偏っていることや高額商品のイメージが強すぎることなどを課題の一つと考えてきた。若い世代にもアピールすることが将来への布石になる。「直接の目的でなくてよいから、とにかくメルセデスブランドに触れてもらう拠点が欲しい」との思いで2011年7月、東京ミッドタウン(港区六本木)前の交差点角地に、初の直営店舗「Mercedes-Benz Connection(メルセデス・ベンツ コネクション)」をオープンさせた。運用期間は約18カ月間。後に控える別の計画が動き出すまでの期間限定で敷地を利用する。

 2階建ての建物内にはメルセデス・ベンツの展示スペースのほか、カフェとレストランが入る。クルマの販売は行わず、相談があればその人の住まいの最寄りにある販売店を紹介する仕組みを整えた。全国各地の「ショールーム」とは区別し、展示スペースは「ギャラリー」と位置付けている。ギャラリーの面積はフロア全体の約4分の1に抑えた。

交差点側の1階にはカフェ「DOWN STAIRS COFFEE」、2階にはレストラン「UP STAIRS」のテラス席が陣取る。飲食目当てでやってきた人がふとクルマの存在に気付き、新しい「つながり」が生まれる。店舗名に「コネクション」が付くのはそうした理由から(写真:西田 香織)
[画像のクリックで拡大表示]
クルマを展示する「ギャラリー」。毎月テーマを決めて展開する。2階のトップライトからの光が1階にまで降りてくる。室内でありながら屋外の感じを出すことを狙っている。奥にカフェが見える(写真:西田 香織)
[画像のクリックで拡大表示]

 交差点から最も見渡しが利く角のスペースには朝7時にオープンするカフェがある。入ってすぐの場所には、長さ5メートルの大きなテーブル。電源を備えてあったりタブレット端末を置いてあったりと、日中はパソコンでの軽作業や打ち合わせで訪れるビジネスパーソンの姿を多く見かける。2階は全体がレストラン&バーで、角地側はテラス席が陣取る。このレストランは週末と祝前日、深夜4時まで営業している。

 こうした飲食店などとの複合型直営店舗を本格的につくったのは、メルセデス・ベンツでは世界初。これまでのイメージから脱け出ることが目的のため、独本社を説得し、既存販売店用のデザインマニュアルから完全に離れた店舗づくりに挑んでいる。

 ブランディングとマーケティングのための新たな拠点をつくることを決めたメルセデス・ベンツ日本は2010年11月にコンペを実施し、カフェの設計でも実績がある窪田建築都市研究所を設計者に選んだ。さらにレストラン&カフェのプロデュース・運営を、飲食空間とファッションやアート、音楽との融合を得意とするトランジットジェネラルオフィスにゆだねた。

2階レストラン。飲食をプロデュースしたトランジットジェネラルオフィス代表の中村貞裕氏は「女性客を意識するとともに、2階ではカジュアルさも生まれるようにした。ガラス張りに抵抗を示す人もいるかと思ったけれど、むしろ入りやすい店として受け取られていると分かった」と話す(写真:西田 香織)
[画像のクリックで拡大表示]
2階レストランのラウンジ部分。設計が進んだ後に参画した中村氏は、「大きな変更などができる日程ではなかったけれど、窪田さんは飲食店としてのオペレーションのことを考えて対応してくれるのでやりやすい」と評する(写真:西田 香織)
[画像のクリックで拡大表示]