モーツァルト、きちんと弾けるプロは一握り?

 「片平さん、モーツァルトは楽譜をきちんと弾いているだけでは永遠にモーツァルトにはならないのですよ。モーツァルトに聞こえるためには、ピアノもバイオリンもフルートもさまざまな箇所でさまざまな種類の独特の技術的洗練が必要になるのです。それはきわめて高度なもので、今日世界でプロと呼ばれている人でもそれを完璧にできる人はそう多くはいません」

 私は先日、ブランデンブルグ国立管弦楽団フランクフルト主席客員指揮者、浮ヶ谷孝夫氏とその奥様で世界的なフルート奏者の浮ヶ谷順子氏と会食するという何とももったいない機会に恵まれました。クラシック音楽についてはただぼんやりと聞くだけの典型的な目利かずですが、浮ヶ谷さんのこのお話をお聞きした瞬間、これは今まで私が勉強してきた何かに通じるものがある、と身を乗り出したのでした。

 私は、クラシックの演奏では楽譜が基本的な指示を出すもののその先はプロの演奏家たちが自由奔放に自分の創造性を発揮できるものと思っていました。ところが現実は、真っ白なキャンバスなどはなく、ここは何色、あそこはこのかたちというふうにガチガチに決められていて、それを守るだけでも技量が追いつかないのだというのです。したがって、その守るべきものを正しく守っていると、その先に自らの独自の世界を表現する余地はほとんどなくなっている、というわけです。

 あとで浮ヶ谷さんから私の不明を手助けしてくださるメールを頂戴しました。そこには、上述の「技術的洗練」が少なくとも6つの要素からなっている、とありました(下記付表参照)。

【付表】
1. 全体の音量
2. 高音から低音までのバランス等、音の響かせ方
3. 音符の長さ、アクセントのあり方
4. フレージング(日本ではあまり問題にされないようですが)
5. フォルテ、ピアノ等の強弱の使い分け
6. 何よりモーツアルトであるためのテンポの扱い