丁野奈都子(以下、丁野) アンパンマンの勇姿と「アンパンマンのマーチ」の歌詞が印刷された真っ赤なポスター。被災地に貼られて、子どもたちを元気づけていると伺いました。

やなせたかし(以下、やなせ) ぼくはかなりの年なので、昨年、辞職願いを出して仕事をやめようと思ったのですが、震災が起きてしまった。あちこちから声がかかるので、これはちょっと引退しているわけにはいかん、ということになりました。

これが、被災地に送られたポスター。「アンパンマンのマーチ」の歌詞が印刷されている(画像クリックで拡大)

 さて、なにをすべきか。

 とりあえず、ポスターを作って、宮城県の友人に送ったんですよ。「ポスターでは、さしたる役にはたたんでしょう」と思ったのですが、喜ばれてね。避難所や病院に貼るということで、あっと言う間に無くなってしまった。増刷して、また送ったんですが、こんなに喜んでもらえるとは思いませんでした。それで、寄付をしたり、歌を作ったり。いろいろやっているわけなんです。

丁野 被災地の子どもたちに向けた歌を、作詩作曲されたのですか?

やなせ 被害がひどかった岩手県陸前高田市の海岸に松の木が1本残ったというので、松の木の歌を作ったのです。CDにして、市に寄付しようと考えています。ぼくが作詩作曲して、歌も歌っています。「がんばれ」ばかりでは疲れてしまいますから、もう1曲「ララバイ」も作りました。アンパンマンのハンカチ(バンダナ)も作ったんだけど、これは「もう、なんにでもお使いください」と市に送りました。

丁野 さまざまな支援をなさっているんですね。アンパンマンのポスターは、被災地の子どもたちだけでなくその親御さんや、現地で復興に携わった自衛隊の皆さんまで、勇気づけたと聞きました。

やなせ たくさんの反響がありましたね。あるお子さんは、震災でぜんぜん笑わなくなってしまった。その子が、このポスターを見た途端、笑いだして、お母さんは(それを見て)泣きだしてしまったそうです。

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丁野 アンパンマンのどういうところが、子どもたちやたくさんの人を元気にするのでしょうか。

やなせ 作者のぼくにはぜんぜんわかりません。元気づけるつもりで作ったキャラクターではないですから。もともと、子ども向けの仕事をしていたわけでもありません。偶然、絵本を描いて子ども向けの世界に入り、アンパンマンを作ったんです。それも小学校3年生ぐらいからじゃないと、ぼくの絵本はわからないだろうと思っていました。でもなぜか、アンパンマンは、9カ月ぐらいの赤ちゃんも喜ぶんですね、驚きです。

 アンパンマンのコンサートもやっていますが、そこには、お母さんに抱っこされて、赤ちゃんがズラーッと並ぶんですね。普通のコンサートは「幼児お断り」ですけど、うちのコンサートはどういうわけか、おかあさんの膝の上で赤ちゃんが(腕をグイッと振り上げ)踊るんだよね…。