テレビCMのセリフ「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか?」の印象が強烈な『謎解きはディナーのあとで』。お嬢様刑事が担当する難事件を、毒舌執事が解決する短編6編からなるユーモアミステリーの連作集だ。主人公は、金融・電気・ミステリー出版などを手がける複合企業『宝生グループ』総帥の娘・宝生麗子。大財閥の娘であることを隠したまま新米刑事として職務に挑む麗子は、事件をめぐって、職場では自動車メーカーの御曹司で天敵のような上司・風祭警部と、家では謹厳実直で頭脳明晰な執事と、毎度やりあうことになるのだが…。

 初版発行部数が7000部ながらも、発売当初より書店員からの強い支持を受けた『謎解きはディナーのあとで』。朝日新聞の「売れてる本」に掲載、テレビCMの放映や本屋大賞ノミネートなど話題がさらなる話題を呼び、発売半年で発行部数100万部の大台を越える大ベストセラーになった。4月12日には「全国書店員が選んだ いちばん!売りたい本」として第8回本屋大賞を受賞し、ますます注目が高まっている。

 多くの書店員が本書の魅力として挙げるのが、若き執事・影山のキャラ。影山は麗子に対して慇懃無礼このうえない口の利き方をしながらも、華麗に事件の真相を言い当てていく。冒頭のセリフは、影山が第2話「殺しのワインはいかがでしょう?」で事件を見抜けない麗子に向かって冷たく放ったひと言だ。影山はほとんどの短編で「失礼ながら、お嬢様」と前置きをしながら、「アホでいらっしゃいますか」「ズブの素人よりレベルが低くていらっしゃいます」などと麗子の考えを一刀両断し、自らの推理を披露していく。そもそも各短編のタイトルが「殺人現場では靴をお脱ぎください」「花嫁は密室の中でございます」など影山口調であることからも、実質上の主人公は影山であるともいえるのだ。

 また、麗子と影山、あるいは麗子と風祭警部の間で交わされる、ハイテンションでどこかズレた会話も人気が高い。「何しろ、会話がおもしろい。登場人物がおもしろいっ。事件はさすが本格推理ものなのに、こんなに軽快でよいのでしょうか?」「影山執事(S)×麗子お嬢様(ツン)ふたりが掛け合い漫才さながらの会話で推理を組み立てていく様が、すごくツボにハマる!」というのは、推薦コメントとして寄せられた書店員のリアルな感想だ。この評価はまさに、デビュー当初から一貫してギャグやユーモアに満ちた本格トリックを作風としてきた東川篤哉の本質が読者に伝わっていることを意味している。

 こうして圧倒的な支持を受けた『謎解きはディナーのあとで』は、小学館が発行する月刊誌『きらら』ですでに続編の連載が始まっている。シンプルでポップな描写と1話ずつ気楽に楽しめる構成も、幅広い読者に受け入れられている要因であることは間違いない。小説は読み慣れないがマンガや映画の謎解きは好きという人こそ、楽しめる作品なのである。