3月3日に第32回吉川英治文学新人賞が発表され、辻村深月の連作短編集『ツナグ』が受賞を果たした。「吉川英治文学新人賞」と聞いてピンとくる人は、かなりの文学通、もしくは文学賞通。「優秀な小説を発表した人の中から、最も将来性のある新人一人」を選ぶと銘打たれた賞で、これまでの受賞者には宮部みゆきや伊坂幸太郎などベストセラー作家の名前が並ぶ。

 エンタテインメント小説を対象とした賞としての権威は高く、直木賞と同等もしくはそれ以上と目されながらも、一般的な知名度はさほど高くない文学賞である。5年前には、警察小説の匠とも称されるベテラン作家・今野敏が受賞したことでも話題になった。「新人が対象」とうたいながらも、実力ある中堅に贈られるというのが、大方の見解だ。なお、ベテラン作家が対象となる「吉川英治文学賞」も併設されている。

 第32回受賞者となった辻村深月は、1980年生まれの新進気鋭の女性作家。2004年の『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞受賞デビュー以来、年2~3作をコンスタントに発表し続けてきた。吉川英治文学新人賞の候補にもたびたび名前が挙がり、2010年には『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』で第142回直木賞の候補となるなど、文学界からもその才能は高く評価されてきた。思春期の女性特有の機微を描く巧みさで早くから若い女性の支持を集め、より普遍的に人と人のきずなや人との関係性の中で揺れ動く気持ちを細やかに描き出すようになってからは広い層から支持されるようになってきた。

 今回の受賞作『ツナグ』は、“ツナグ”と呼ばれる使者を通して、死んでしまった人にたった一度だけ再会できるチャンスを与えられるという物語。ファンタジー的な設定ではあるが、都市伝説のように広まっている“ツナグ”の存在に対して、登場人物も読者同様に懐疑的な視点を抱くところから始まっているため、物語の世界観にはすっと入り込める。登場人物それぞれが抱える死者への思いや生きる葛藤などが、丁寧な筆運びでリアルに描かれていく。OLや会社員など一般的な人々がそれぞれの思いを抱えて死者に再会する4編と、使者の役割を担うことになった青年の物語の計5編。死者と再会した生者ひとりひとりの心には、新たな何かが確実に生まれていく。そして、全編を通して描かれている、希望や絶望を抱えながらも生き続ける人々への優しくもあたたかいエール。1編1編を単独で楽しめる面もありながら、連作として通読するとより一層深い味わいが待ち受けている。

 ミステリーの新人賞出身だということもあり、ミステリー作家に分類される辻村深月。だが、その作品は、ミステリーやファンタジー的な要素こそ含まれるが、真摯で深い愛情に満ちた人間の物語である。孤独や喪失感にさいなまれているときにこそ、心に染み渡るのが辻村深月なのである。