音楽出版社としての各社の強み

 エクシング・ミュージックエンタテイメントの強みは、カラオケという音楽消費地への近さだ。「うたスキ」という会員数500万人のSNSを持っており、会員の歌唱履歴から「年齢や地域、楽曲を紐付けて、どんな傾向の曲が、どんな層に人気かが分かる」(エクシング小林氏)という。ボカロ曲はマーケティングの参考になる数字が皆無に等しいため、これは貴重なデータになるだろう。またボカロP自ら出演するプロモーションビデオを作って、カラオケ端末の画面に流すというダイレクトな宣伝もやっている。

エクシング 経営企画本部 編成企画部 渉外G グループ長の小林拓人氏

 クリプトン・フューチャー・メディアは、初音ミクその他、ボーカロイドのキャラクターの権利を持っている。「ボーカロイド文化はキャラクターと分かち難く存在している」と話すCFM伊藤氏。ゲームやイベントなど、企業ベースでの企画は、同社に持ち込まれることが多い。それは管理曲をプロモートする絶好の機会だ。

 出版社としての事業を始めたのは、これまでもムーブメントの発信源として、初音ミクの窓口のような役割を負わざるを得なかったから。「企業から曲に関する問い合わせがあれば、我々が作家に対して一つ一つ許諾をもらっていた」(伊藤氏)。出版社として作家と契約できれば、こうした作業が軽減される。権利処理の合理化も大きな目的の一つだ。

 音楽出版社として他にない試みは、インタラクティブ配信を著作権管理事業者のジャパン・ライツ・クリアランス(JRC)に信託できるオプションを用意したこと。JRCとCFMは昨年の12月20日から、ネットで音楽を利用する場合、非営利なら著作権使用料を免除する取り組みを始めた。ネットで今まで通りに使え、かつJRCと契約のある配信サービスからは著作権使用料を回収できる。また配信サービスによっては、著作権管理事業者から分配を受けられるという前提で、あらかじめ著作権使用料を引かれてしまう場合もあり、それをケアする目的もあるという。

ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント取締役 制作管理部部長の仁平淳宏氏

 ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント(DME)は、一般的な音楽出版社として見ても相当にユニークだ。音楽著作権を部分信託する場合は、どの権利を信託するか支分権(※)の組み合わせを決めて著作権管理事業者に登録する。他の出版社はこの「組み合わせ」を2パターン程度しか用意していないのに対し、DMEは実に6パターンを用意している。楽曲単位で支分権のパターンを変えられるため、作家が望む形態にほとんど対応できるだろう。

 加えて信託の際に外した支分権も、作家の自己管理ではなくDMEがフォロー。契約時にDMEが全支分権を預かるという仕組みで、JASRAC等に信託しなかった部分についても営業をかけ、その分の対価も求めるという。音楽出版社としての強みは「ニコニコ動画に近いこと、そしてレコード会社やゲーム会社とのパイプが強いこと」(仁平氏)だ。通信カラオケなども特定の事業者だけでなく、幅広く営業できる。

※:著作物の利用のしかたによってそれぞれ定められた権利のこと。著作権は複数の支分権から成り立っている。音楽の場合はその利用形態と共に「演奏」「録音」「出版」「貸与」「ビデオ」「映画」「CM」「ゲーム」「放送」「インタラクティブ配信」「通信カラオケ」と分かれる。権利者はどの著作権管理事業者にどの支分権を信託するかが選べる。
「“ネット発音楽”で新潮流!著作権の「部分信託」で何が変わる?」も参照

3社が扱っている、信託のパターン
  著作権
管理
事業者
演奏 録音 出版 貸与 ビデオ 映画 CM ゲーム 放送 インタラクティブ配信 通信カラオケ
エクシング・ミュージックエンタテイメント JASRAC
エクシング・ミュージックエンタテイメント 第二事業部 JASRAC              
クリプトン・フューチャー・メディア 株式会社 JASRAC              
クリプトン・フューチャー・メディア 株式会社 JRC                    
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント JASRAC    
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 第1事業部 JASRAC
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 第2事業部 JASRAC              
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 第3事業部 JASRAC        
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 第4事業部 JASRAC  
ドワンゴ・ミュージックエンタテインメント 第5事業部 JASRAC          
音楽出版社が著作権管理事業者に登録する支分権の表。支分権のパターンごとに著作権管理事業者に対して事業部を置く必要があるため、各音楽出版社には複数の事業部が存在する。例えば「エクシング・ミュージックエンタテイメント」は全支分権をJASRACに信託し「エクシング・ミュージックエンタテイメント 第二事業部」は「演奏」「貸与」「放送」「通信カラオケ」のみをJASRACに信託している。また「クリプトン・フューチャー・メディア 株式会社」はJASRACとJRCで、支分権のパターンを変え、同じ曲でも「演奏」「貸与」「放送」「通信カラオケ」はJASRACに、「インタラクティブ配信」はJRCに信託するという振り分けができる