元「広告批評」編集長・河尻亨一氏が、消費者の心を巧みにつかむヒットメーカーたちのコトバから、時代の“ツボ”を探る。インタビュー&レビューの「ハイブリッドスタイル」で、“テック”な現代のトレンドをディープに読み解いていく。  

吉田流ヒットの極意とは?

 前回に引き続き、『夢で逢えたら』『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば』『笑う犬の生活』『トリビアの泉』『爆笑レッドカーペット』等のヒット番組を手がけてきた吉田正樹氏にテレビの現状や独自のヒット論などについて聞く。

 前編では、テレビ業界でさまざまなヒット番組をリリースしてきた吉田氏が現在取り組んでいるインターネットのコンテンツ制作(ネスレオフィシャルサイト内で公開中)の話題をメインに、独自のデジタルメディア論(共有地の必要性)などについて話していただいた。それをもとに今回はもう少し幅広いフィールドに応用できそうなヒット論、テレビの現状などについても聞いてみたい。

 キーワードは前回同様、「怒り」「逸脱(多様性)」「フロンティア」。

 吉田氏にとってこの3つがヒットの原動力になっているようだが、そういったパワーを生み出すチームとはいかなるものか? 吉田さんおすすめのアイデア発想法とは? 

 そういったノウハウについても語っていただく。

「僕をわかってください」という思想を持つ

――『笑う犬の生活』(99年)は、あえてオーソドックスなコント路線にすることでヒットしたというお話だったのですが、そういう企画で行くぞと決断するのはなかなか度胸がいるのではないでしょうか。どのあたりが決め手になるんでしょう?

吉田正樹氏(以下、吉田):まあ、失うことを恐れなければ、別に大した決断じゃないんじゃないですか? 「若いこと、貧乏であること、無名であることは、創造的な仕事をする三つの条件だ」by毛沢東ですよ。早坂茂三さんが教えてくれた言葉なんですけど、なるほどと思いました。チャレンジャーはリスクを恐れちゃいかんのです。

――チャレンジ精神以外でのヒットの秘訣とはズバリ何ですか?

吉田:わかりません(笑)。でも、制作者側のヒット作りの気持ちの秘訣はあるかもしれませんね。例えば、ひとつは「僕をわかってください」という思想を持つということじゃないでしょうか? ヒットというのは、たくさんの他者にわかってもらうことから生まれるわけですから、「自分のことをわかってほしい」と強く思いながら生きるか、「好きなことだけをやりたい」と漠然と思うのか、そこには大きな隔たりがあると思う。

 そのためには、一度は自分以外の人を強烈に好きになる経験が大事ですよね。「激しい片思いをしたことがない人に恋愛は一生わからない」。世間でもこう言われておりますように(笑)、それは自分のことを強烈にわかってもらうにはどうすればいいかを死ぬほど考える体験になるでしょう。それと同じく、すごくリスペクトするアーティストがいない人は、立派なアーティストにはなれない。なぜならその位置に行きたいと思わないから。あくまで僕の意見ですけどね。

 あと、「自分のことをわかってもらう」以上に重要かもしれないのは、「他人のことをわかる」こと。人の話を黙って聞ける能力ってすばらしいですよね。『平成日本のよふけ』という番組があったんですけど、あの番組でナンチャン(お笑いコンビ「ウッチャンナンチャンの南原清隆)がすごいと思ったのは、ゲストの話を「うーん」って聞いてることができるところ。それってすごく大切な資質ですよ。

 3つ目に大事なのは気づく能力。テレビを見ていても街中を歩いていても膨大な情報が脳を通り抜けていくわけですけど、そのときにふと気になったものを、あとでピックアップできるかどうか。朝起きたとき、脳内に前の日に見聞きしたものが沈殿してるじゃないですか。そういうものをとっかかりにして考えていくと、意外といいアイデアになることが多い。その方法はおすすめしてるんですけどね。