【謙虚で堅実】

 私は懇談の最後に、「今の高田さんの夢は何ですか」とお聞きしました。その答えは意外なものでした。「引退して、社員が経営する会社の姿を横でそっと見ること」と語ったのです。成功した創業者の多くは、会社は自分のもの、または、自分の一族のものと考えがちです。高田さんはそれに反して、会社は社員のもの、お客様のものと考えているようです。懇談中に何回も「早くジャパネットたかたの『たかた』を取りたい」と語っていたのもその証左かもしれません。

『ビジョナリーカンパニー』の著者の1人ジム・コリンズは、「トップクラスの経営者とそれ以外を分ける資質の一つは謙虚さだ」と言っていますが、その意味では高田さんは十分にトップクラスの経営者のお仲間に入る資格があると言っていいでしょう。

 もう一つ、私が「日本だけでなく中国やインドもあるが…」と水を向けたところ、高田さんはきっぱりと「今はその時期ではない」と言い切りました。続けて、「国だけでなく商品分野も身の丈を知る必要がある。私たちには化粧品や食品を売る力はない。勉強しないとモノは売れない、世の中はそんなに甘くないと思っています」と語ったのです。

 これだけ成功している会社の経営者から「身の丈」という言葉を聞くことができたのは非常に心地よい驚きでした。高田さんがある雑誌のインタビューで「会社がどんなに成長しても佐世保を離れるつもりはない」と語っていたのを読んだことがあります。ジャパネットというと皆「ああ、あの面白いおじさんの通販ね」と言います。でもこうやって見てくると、ジャパネットたかたという会社も、高田明という経営者も「ただ者ではない」ことがよく分かると思います。


 確たる根拠なく量を追求し、確たる理由なく東京を、そして世界を目指す、それを誰も不思議と思わない中で、これだけ理路整然と自らの行く道を示されると、それが当たり前であればあるほど私たちがいかに大きなものを見逃していたか気付かされます。ジャパネットの活躍は、日本のビジネス、日本のマーケティングのあり方を考える際の強烈な清涼剤です。ジャパネットが着実に成長を続け、佐世保発の熱気を全国に送り続けてくれることを心から祈りたいですね。

著 者

片平 秀貴(かたひら ほたか)

 1948年生まれ。国際基督教大学教養学部卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程、大阪大学助手、講師、助教授を経て83年東京大学経済学部助教 授に。89年より2004年3月まで東京大学大学院経済学研究科教授。その他、米国ペンシルバニア大学ウォートン・スクール客員教授、カルフォルニア大学 バークレー校客員教授、ストックホルム・スクール・オブ・エコノミクス客員教授等を歴任。現在『マーケティング ホライズン』誌 編集委員長、および「日本食いしんぼ学会」発起人代表等。
 著書に『マーケティング・サイエンス』(東京大学出版会)、『パワー・ブランドの本質』(ダイヤモンド社)、『世阿弥に学ぶ100年ブランドの本質』(ソフトバンク・クリエイティブ)ほか。