「恐ろしいんですよ、だってどこもミスタードーナツに勝てないんだから」

舘神:手帳って、滑り出しのころの売り上げは必ず「ボチボチ」らしいんです。3年目くらいからやっと安定すると、元文具メーカーの営業マンの方が言ってました。

納富:それは買う側に不安があるんでしょう。

高畑:「トラベラーズノート」(註9)がえらいのは、最初、日付のないノートのリフィルしか出さなかったんです。ノートを3年くらい売り続けて、これはなくならないと皆が思った頃に、手帳のリフィルを出したんですよ。だからみんな安心して手帳リフィルを1年目から買えたんです。

註9 【トラベラーズノート】:デザインフィルが発売している、シンプルな革のカバーとそこにゴムで留める薄手のリフィル(A4三つ折りサイズ)で構成されるノート。リフィルには週間手帳や月間手帳などが用意されていて、好きに組み合わせて利用出来る。

舘神:プラットフォームを先に流していく方法ですね。市場を地ならしするというか。

高畑:そういう安定性を考えたら、そこらの手帳よりも、よっぽどミスタードーナツの方が手帳業界に影響力がある(註10)わけですよ。

註10 【ミスド手帳】:「スケジュールン」の名前で、一部のユーザーには定番化している、ミスタードーナツがポイントの景品として頒布している手帳。11月中に人気の柄はなくなるほどの人気で、ネットオークションでも取引されている。見開き1週間バーティカル型(縦型)で普通に使える。

舘神:ミスタードーナツは固定客が沢山いるからね。

高畑:あれも、毎年ちゃんと出るというところまで来ちゃってるから信用がある。しかもタダで配るところからスタートしているから。

舘神:「女子高生の能率手帳」みたいな存在。手帳ってそれを使う人のコミュニティの時間感覚を具現化したものという側面があります。その意味では、彼女たちの年玉手帳(註11)的な存在かもしれませんね。

註11 【年玉手帳】:企業が、自社で制作し、年末や年始に社員に配る手帳。毎年配られるから「お年玉」のような手帳として、「年玉手帳」という言い方をするケースもあった。

高畑:恐ろしいんですよ。だってどのメーカーもミスタードーナツに勝てないんだから。ミスタードーナツのあの数に勝てる手帳を作っているメーカーなんてほぼ無いんだから。

舘神:あれって何冊出てるんですか。

高畑:昔、数字を聞いたけど、信じられないくらい出てます。

納富:しかも1種類ですからね。

舘神:何種類かありますよ。色柄だけじゃなくて。

納富:中身も?

舘神:中身も。

高畑:そうなんだ。でも2パターンくらいじゃないですか。それと似た話になるのが「ほぼ日手帳」(註12)。あれは「ほぼ日手帳」と「カズン」とか、3種類くらいしかないのに、あれでロフトの手帳の売上高のかなりの部分を占めちゃってるんですよ。あれだけほかの手帳がたくさんあるのに。

註12 【ほぼ日手帳】:糸井重里氏が企画した文庫サイズ、1日1ページのバーティカル型手帳。紙や製本にこだわり、様々なものが入るカバーと共に毎年、何らかのリニューアルを加えながら発売。当初、文庫サイズの1アイテムだったが、現在、A5サイズの「カズン」、一週間見開きのビジネスタイプ「WEEKS」もラインアップ。

ほぼ日手帳で、文庫サイズのモデル「オリジナル」の2011年版(画像クリックで拡大)

納富:糸井さんはよく、能率手帳に比べるとうちなんか全然小っちゃくてっていうんですよ。確かにそうなんだけど。

高畑:全部足すとという話なんですよね。マイクロソフトに比べればうちなんかって話をしているかもしれないけど、単アイテム当たりの売上でいったら、iPhoneを出しているみたいな感じですから。

納富:実際、「ほぼ日手帳」は、手間ひま掛けていて、それをちゃんと回収出来ている、凄く上手くいってますよね。来年も出るなという安心感もある。

高畑:そう、「ほぼ日手帳」はもう安心して買えるし、せめて「勝間手帳」みたいに、毎年出るというところまでこぎ着けていると良いんですけど、多くは、初年度にかけたエネルギーを回収出来てないから。

舘神:能率手帳とかは、かならず新しいアイテムを出して、ちょっと様子を見てますよね。最近の例で言うと、日経ビジネスアソシエとコラボした「リスティ」(註13)とかは、来年版ももう出ますよね。2010年版から始まって。だから大きなところはそういうような実験を端の方でポツリポツリやって。

註13 【リスティ】:能率手帳と日経ビジネスアソシエがコラボレーションした、1週間見開きバーティカル型の手帳。特徴は、手帳の紙面が方眼になっている事。また、残日数表示、深夜までの時間軸など、ビジネスの現場の意見を反映したレイアウトが特徴

高畑:ポシャるものはポシャる。大きいところはラインナップが多いし、基本的なノウハウは流用できるから、新しいモノも作りやすいんですけど、思い入れがあって、一個だけ作っちゃいましたというのは、結構危険なんですよね。

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 ――達人たちのトークはまだまだ続きます。第2回はこちら。また「日経トレンディネット・300万人編集会議」では、読者も一緒に「手帳」について語り合うネット会議室があります(詳細はこちら)。ぜひ参加してください!