出雲独特の風景を生み出す「築地松」に見る先人の知恵

家を守るための築地松。樹齢300年以上の松だが、枝は家の外側だけに伸びる独特な風貌。風に対する松の木の負担の軽減と、松のメンテナンス費についても考慮した独特の剪定(せんてい)が行われてきた。度重なる風水害との戦い。出雲の人たちは自然災害から逃げるのではなく、いかに共存するかの知恵を重ねてきた結果だ。堂々とした末の幹と独特な剪定がなされた枝も含めて、ワイドレンズで幹にググッと寄って撮ってみた
【撮影データ】
キヤノンEOS 5D markII、レンズ:キヤノンEF16-35mm F2.8L USM 、シャッタースピード:1/160秒、絞り:f7.1、ホワイトバランス:オート、ISO感度:400
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 出雲市周辺の多くの家の周りには、松の木が植えられている。ただの観賞用に植えられたのではなく、しっかりとした目的のある植え方だ。これは築地(ついじ)松と呼ばれ、島根の風水害から家を守るための、先人たちから受け継がれたこの地ならではの知恵である。島根県の出雲市を流れる斐伊川は台風などで氾濫し、川の周囲の家を浸水させる被害を続けてきた。

 実は、この地方に伝わる「やまたのおろち伝説」の8つの頭と8つの尾を持つ龍とは、川が増水して何本もの流れに分流し、それぞれの流れが暴れて氾濫する姿を意味していたのだ。「やまたのおろち」を征伐(せいばつ)する伝説こそ、この川の氾濫と戦う人たちの姿を表現した伝説であったのだ。

 長年の水害による経験から、この地に住む人たちは家の周囲を盛り土して周りよりも高くし、その盛土した周囲に松を植えた。この盛土は通常、土居とか土塁と呼ばれるが、この地方では築地(ついじ)と呼ばれ、そこに植えられた松だから築地松という名がついた。

築地松は、家を囲む大きなフェンスのような形に剪定されていた(画像クリックで拡大)

 松は根を伸ばし、根を張ることで土地を強化なものにする。さらに上に伸びた松を手入れすることで、防風林として作用する。松の葉は、風を切ってその力を弱める。松自体も風を適度に受け流すため、折れたり倒れたりすることは少ないそうだ。また松の家側の枝を切り、樹冠を小さくまとめるという「陰手刈り(のうてがり)」と呼ばれるこの地域独特の剪定(せんてい)法は、松そのものの風に対する負担を減らすばかりではなく、手入れの簡便さと手入れに対するコスト軽減にもつなげているというからたいしたものだ。

 豊造一行は築地松案内人の瀬崎勝正さんのお宅を訪ね、間近に見せてもらった。その日もかなり風が強かったのだが、築地松の内側に入ると、まるでそよ風ほどにまで弱められていた。造景は職業柄、松の手入れに着いてすごく関心を抱いていたが、僕は松の木を植えることで風からの害を防ぐという出雲の人たちの知恵に驚いていた。実際に1991年に大きな被害をもたらした台風19号の際には、最大瞬間風速56.5mという地上のものが吹き飛ばされるような烈風でも、この瀬崎家の家は瓦ひとつ飛ばされなかったというから、築地松がどれだけの効果をもたらすものなのか想像できよう。

ちなみにこの家の松は300年以上も前に植えられたもの。いやはや先人の自然災害に対する知恵と、それを守り続けることの大切さとが思い計られる築地松であったのだ。

松の枝は、まるでやまたのおろちの腕を連想させるような不思議な造形がみられた。造形的に面白い部分だけを切り撮るために、望遠ズームレンズEF70-200mmを取り出し、非日常的な表現となる縦位置にカメラを構えて撮影した
【撮影データ】
キヤノンEOS 5D markII、レンズ:キヤノンEF70-200mm F2.8L USM IS、シャッタースピード:1/200秒、絞り:f7.1、ホワイトバランス:オート、ISO感度:800
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