8巻で終わるつもりが大長編に~『BECK』のこと

『BECK』/全34巻(画像クリックで拡大)

 ロックバンドに集まった5人の少年たちを描いた青春物語『BECK』。本作は、勉強もスポーツもごく普通、どこにでもいる中学生だった主人公・田中幸雄(コユキ)が、米国帰りの少年・南竜介と出会うところから始まる。竜介によってボーカルとしての類まれなる才能を見出されたコユキは、それをきっかけにバンド活動にのめり込むようになり、竜介ら仲間たちとともに成長していく。鳥肌が立つエキサイティングな演奏シーンを最大の魅力とする本作は、掲載誌(月刊少年マガジン)の主読者層である少年たちのみならず、幅広い層の読者から熱狂的な支持を集め、全34巻を数える人気作となった。ここではそんな『BECK』について話を聞いてみた。

――「BECK」開始当時のインタビューでは「8巻くらいで終わらす予定だ」とおっしゃられてましたが。

ハロルド: そうでしたっけ?(笑) 始めた当時からラストのイメージはあって、「ここからここまで描いたらおおよそ8巻くらいかな」と思っていたんですよね。編集者から続けてほしい、とか言われたわけではなくて、自分がまだ描いていたくて続けさせてもらいました。

――もっと描きたくなったのは?

ハロルド: 連載中にシアトルへ取材に行かせてもらったのが大きかったですね。これは『BECK』とは関係なく、野球を見に行くための取材だったんですけど。

――『BECK』の前にプロ野球マンガの『ストッパー毒島』を描かれてましたよね。当時「続編を描くのでは?」という噂がありましたが、その取材でしょうか?

ハロルド: そうなんです。当時『ストッパー毒島』の続編を描く気満々だったんです。で、どうせシアトルに行くならカート・コバーン(ニルヴァーナ)が自殺した場所や、ジミヘンのお墓に行ってみたくなって。そうしたら描きたい話がどんどん浮かんで来て、結果的に『BECK』の取材になってました。そんな「描きたいもの」が積み重なって、気がつけば8巻で終わる予定が34巻にまでなっちゃってました。

映画『BECK』/9月4日公開

――実写映画化されますね(9月4日公開)。堤幸彦監督、コユキを佐藤健、竜介を水嶋ヒロが演じます。映画はどうでしたか?

ハロルド: スタッフの人たちがすごく原作を愛してくれていましたし、熱意も感じました。マンガは音が出ない前提で描いているものですから、それはそのまま映画にはできない。だから、こちらもゴーサインを出すまで、スタッフの方々にこちらの希望をいろいろ伝えましたしいい信頼関係が築けました。映像化する際、原作者としてのマンガ家は、自分の畑で作った素材を渡す農家のようなものですよね。その畑で作ったモノを大事に、料理して店に出してもらえた。自分は幸せなんじゃないかと思います。

――では、『ストッパー毒島』の続きは?

ハロルド: 機会があれば描きたいとは今も思っています。でも『~毒島』が終わってもう10年以上経ってますし、当時とはプロ野球の仕組みもだいぶ変わっちゃっている。前回の続きとしてそのまま描けるかというと難しいですよね。野球自体はすごく好きなので、今後の作品の中で何かしら出てくるかもしれないですけど、今「続編を描く」とは高らかには言いづらいですよね。『~毒島』より描きたいものが出てきてしまいましたしね。

――『ストッパー毒島』までは週刊誌で連載し、『BECK』で9年間月刊連載。『7人のシェイクスピア』で週刊連載に戻ったわけですが、ぺース配分は大丈夫ですか?

ハロルド: 苦労していますよ。『BECK』を始めたときも、週刊誌と月刊誌での作り方の違いには戸惑いました。週刊誌の場合は1回が20ページ程度。それが月刊誌では60ページ程度なんですね。週刊誌の場合は1回につきお話のヤマを1個作ればいいのですが、月刊誌では2個か3個必要になる。『BECK』は、週刊誌連載方式を踏襲して、60ページを3つに分けて描いていく方式をとっていました。

 『7人~』で週刊ぺースに戻すのは大変でした。物語の構成の仕方も、月刊と週刊では全然違うんですよ。1巻の最初の頃は1話1話が週刊にしては長くなってしまってたんですが、最近になってようやく慣れてきました。身体で取り戻してきた感じです。