「カプセルが欲しい」という問い合わせも

 個人的に特に気に入ったのは、そら豆のような形状の大きな枕だった。6つの部位に分けて、4つの異なる素材を配置、寝返りをうっても、睡眠時の姿勢を保つような構造が工夫されている。記者はこの枕が自宅に欲しくなったのだが、枕どころか、カプセルまるごとほしいという問い合わせがすでにあったという。

 「『トランジット』をキーワードに、宿泊施設に求められる機能を絞り込みました。活動的なビジネスマンが汗と疲れをしっかり落としてリセットし、またそれぞれの新しい1日に向かって飛び出していくような、都会の新しいショートステイの形を切り拓いていきたい。世界各地で日本のカプセルホテルをヒントにした小さな居住空間を提供する新しいホテルが増え始めています。しかし、空間を工夫することに取り組むそれら宿泊施設と9hは一線を画していると思っています」と油井啓祐社長は話す。

 “トランジット”といえば、乗り継ぎや乗り換えのことだが、トランジットのようなホテルとはどういうことか。旅がある地点とある地点を結ぶ移動だとすれば、通常、ホテルは出発地点か到着地点のどちらかにあるものだ。ところが、トランジットは移動の途中にある。そう考えると9hにテレビをダラーっと見るような機能がないこともうなずけるかもしれない。そういう我が家の日常は移動の前か後で堪能すればよいものだ。

 機能を絞り込んだ9hには、ないものとあるものがある。ないものは徹底的にないし、あるものはアメニティにしても睡眠のための環境にしても質の高いものが提供されている。ちょっとした仕事をする環境という機能は、9hにはない。トランジットなのだから、多くの機能を期待するのは間違い。それよりも、泊まる前に長居できるカフェなどを事前に見つけておくのも9hの賢い利用法かもしれない。

 9hは今後大都市を中心に出店を進める計画。すでに都内などで準備が進んでいるほか、地方のビル所有者などからの引き合いも多いという。

 9hを特徴付けるスタイリッシュさというのは、従来のカプセルホテルのメインユーザーである中高年男性には、ややとっつきにくいかもしれない。例えば、シャワーのコックひとつとっても、シンプルで使いやすいがオリジナルの見慣れないものなので、戸惑ってしまうかもしれない。せっかくの寝室環境システムはボタン操作だけの簡単設定だが、「ややこしいな」とイライラする人が出てくるだろう。なんか落ち着かないという人もいるかもしれない。スタイリッシュさがおのずと利用者を選別してしまう可能性があるのだ。

 そのかわり、これまでカプセルを敬遠していた層を新たに開拓することができるかもしれない。リーズナブルでおしゃれで安心して泊まれるから積極的に利用したいという女性は確実にいるだろう。また、下手なビジネスホテルで1万円前後の宿泊料を払って疲れがぬけきれないよりも、4900円で質の高い睡眠が得られれば、そのほうがいいと思う層の利用も見込める。9hの提案する宿泊スタイルに共感する“ファン”をどれだけ獲得できるかに注目したい。

9h(ナインアワーズ)京都寺町店

京都市下京区寺町通四条下ル貞安前之町588
URL:http://9hours.jp

(文/上保 文則)