小室哲哉容疑者(以下TK)に関する、一部マスコミの嬉々(きき)とした報道の仕方はなんだろう。村上ファンド、ホリエモンに続く、"小室劇場"に乗っかっているようで、悲しかった。

 デビュー前から彼を知っているが、シャイで24時間スタジオ作業できれば食事も睡眠もいらないという不思議な青年だった。そんな彼が最盛期の浪費を去年も今年もしていたかのような報道の煽(あお)り方は、かなりバイアスがかかっていて、うさんくさく思えた。

 TKの収入は、日本音楽著作権協会および音楽出版社を経由する印税のみなので、仮差し押さえをされると、手元の預金を使い果たした後、キャッシュがなくなるのは当然だ。

 音楽業界にアドバンス(楽曲制作前にレコード会社がアーティストに一定金額を先払いする)という慣習があったことも、彼の金銭感覚を麻痺(まひ)させていたといっていい。おそらくアドバンス感覚で、あちこちから借金を重ねたのではないだろうか。その中には怪しい輩も大勢いたに違いない。

 吉本興業移籍時に同社幹部や税理士が驚いたのは、彼がファウンダー(創設者)として築いたレコード会社の株を一切持っていなかったことだ。この会社の上場益があれば、TKの生計は全く違ったものになったはず。どういう経緯があったのかは知らないが、株を手放さなければよかったのに……。


(文/エンターテインメント評論家 麻生 香太郎)

【初出】日本経済新聞、2008年11月15日夕刊
※「テレビの壺」は麻生香太郎氏が日本経済新聞、土曜日の夕刊に連載中のコラムです。日本経済新聞に掲載後、麻生氏および日本経済新聞社に許可を得て転載しております。

著者

麻生香太郎(あそう こうたろう)

大阪市生まれ。東京大学文学部卒。在学中に歌謡曲の作詞家として活動を開始。森進一、野口五郎、小柳ルミ子、小林幸子、TM NETWORKらに作品を提供した。その後、80年代半ばにエンタテインメントジャーナリストへと転身。以来、20年以上にわたって業界をウォッチし続ける。現在は「日経エンタテインメント!」「テレビ・ステーション」などで連載コラムを執筆中。著書に『ジャパニーズ・エンタテインメント・リポート』(ダイヤモンド社)など。